AYA世代の日々 がんとともに生きる

(13)キャンサーペアレンツ・西口洋平さん死去 「つながりが生きる力に」実践

【AYA世代の日々 がんとともに生きる】〈13〉 キャンサーペアレンツ・西口洋平さん死去 「つながりが生きる力に」実践
【AYA世代の日々 がんとともに生きる】〈13〉 キャンサーペアレンツ・西口洋平さん死去 「つながりが生きる力に」実践
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子供を持つがん患者のための団体「キャンサーペアレンツ(CP)」の創設者で代表理事の西口洋平さんが5月8日、死去した。40歳だった。ステージ4の胆管がんと診断されてから5年3カ月。治療を受けながらも精力的に活動し、患者同士が交流し、悩みを分かち合う場を作ってきた。「つながりは生きる力になる」を実践したその姿は、多くの人に力を与えた。

孤独を解消

西口さんは人材会社の営業職だった平成27年2月、ステージ4の胆管がんと診断され、「5年生存率3%」という重い現実を突き付けられた。思い悩んだのが当時6歳だった娘にどう病気を伝えるか。同じ世代のがん患者は周囲にいない。「子供とどう接したらいいか」という情報を見つけることもできなかった。

治療と並行して28年にCPを設立。インターネット上で子供を持つがん患者の交流の場を作った。会員数が伸び悩むなか、SNSやメディアで積極的に発信。今では会員は3700人を超えた。

昨夏の産経新聞の取材に、「5年後は考えられないと医師から言われたのにここまでこれたのは、仲間ができて、心のモヤモヤを共有できたのも大きい」「患者自身が積極的に社会とつながることが、明日を生きる力になる」と語っていた西口さん。

治療の選択肢がなくなっていくなかで人生の終わりを見据えるようになり、昨年ごろから、「自分がいなくなった後の組織づくり」を口にするようになった。

今年2月には組織継続のための新たなスタッフ募集説明会にも顔を出した。緩和ケアを受けながらツイッターで発信を続け、亡くなる3日前の5月5日に行われたCPのイベントにもオンラインで参加。「みんなで一緒に作っていきましょう」と呼びかけていたという。

子育ての時期にがんと診断される人は毎年約6万人と推計されている。仕事や闘病も重なり、負担は大きい。西口さんの友人で、ともにCPを創設した理事の神吉徹二さん(40)は「西口自身が困った経験から始まった活動ですが、生きた証しを残したいという思いもあったようです」と振り返る。

活動を経て、西口さん自身にも変化があったという。「つながり、行動することで西口の孤独も解消された。患者さんも支援されるだけではなく、協力して社会を変える必要があると考えるようになった」と神吉さん。CPのサイトでは情報交換もできるし、日記の投稿も可能だ。投稿に対して「ありがとう」ボタンで感謝を示せる。思いを吐き出し支えられている人も、誰かの役に立てると実感できる仕組みだ。

「前を向けた」

「今を生きることの意味を教えられました」「サイトのおかげで孤独にならず、前を向いて頑張っていられます」-。CPには、西口さんの死を悼む声が数多く寄せられた。

36歳で精巣がんと診断されたCPの理事、永江耕治さん(46)は「子供を持つがん患者という共通の体験があるコミュニティーで、自分のことを話せる、質問できるだけで、頑張れる気持ちになる人もたくさんいる」と話す。

講演やイベントなど積極的に活動する一方で、西口さんは治療のつらさや落ち込んだ気持ちも率直に発信してきた。「ユーモアもあって明るくて、弱いところを見せられる人。だからこそ、多くの人を惹(ひ)きつけた」と永江さん。

「明日、生きているかどうかは誰にも分からない。僕はがんになってそれに気づいたからこそ、今行動しようと思えた。何かに気づいたとき行動しようとする人が増えたら、もっといい社会になるかもしれない」。かつて西口さんは取材にこう語っていた。

CPでは新たなスタッフも加わり、今後も活動を継続、発展させていくという。(油原聡子)

CPでは、7月19日午後1時半から、西口さんのお別れの会を開催する。オンライン形式で、事前申し込み制。詳しくは、CPのホームページ(https://cancer-parents.org/)で。

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