iRONNA発

ヘルプマーク 福祉に立ちはだかる壁 松沢直樹氏

 ヘルプマークの利用当事者として、もう一つ心配なのは犯罪被害だ。そもそも、ヘルプマークは目に見えない障害と共存しなければならない人に配慮され、生まれた。したがって、マークを着けていなければ、健康な人となんら見分けがつかない。

 だが、皮肉なことに、ヘルプマークを着けることによって、障害者であることが分かってしまう。つまり、「犯罪被害に遭っても抵抗できません」と公言しながら、街中を歩いているようなものだ。このため、ひったくりなどの盗難や女性に対しての性暴力、これらの被害が加速しないか非常に心配である。この点については、早急に対策を講じてほしいと思う。

 ◆欠けた当事者目線

 自身が障害者になってよく分かったが、健康なときは全く問題がなかったことが、突然高いハードルになることが日常の中でよくある。その一例だが、悪意があるのではないかと思うくらい、福祉関連の情報は閉鎖的で、積極的に開示されない。

 私が障害者になったとき、役所の障害支援課で障害者手帳申請用の診断書をもらい、医師から診断書を書いてもらって障害者手帳の交付を受けた。だが、そのような病状になっても、病院側から障害者手帳の交付について勧められたことはなかった。

 なぜ、ヘルプマークのような配慮ある運動の一方で、当事者目線を欠いた部分が散見されるのだろうか。長寿社会となった今、多くの人が介護や見守りを必要とする時代だけに、だれもが障害者になり得るということでもある。

 こうした現状を踏まえれば、単に人生の中途で障害と生きることになった人だけの問題ではないといえるだろう。

【プロフィル】松沢直樹

 まつざわ・なおき フリーライター、編集者。昭和43年、北九州市生まれ。航空会社勤務などを経て現職。医療や労働、社会保障などの問題を中心に取材。労働組合「連合ユニオン東京・委託労働者ユニオン」執行副委員長を務めた。著書に『うちの職場は隠れブラックかも』(三五館)など。

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