新型コロナウイルス感染拡大は欧米や日本などで最初のピークを越え、経済活動が再開されたが、日本が欧米に比べて人口当たりの死者が少ないことが「コロナウイルスのミステリーの一つ」(米ワシントン・ポスト紙)と世界から注目を集めている。
「緊急事態宣言」が解除された5月25日、安倍晋三首相が「『日本モデル』の力を示せた」と胸を張ったのは、国民が規律と秩序という高い民度で感染を封じ込めたためだ。
収束になお時間がかかるが、月刊各誌は7月号でこの日本型対策の「ミステリー」に切り込み、「コロナ後の世界」(『文芸春秋』)▽「コロナ・文明・日本」(『中央公論』)▽「コロナ時代の新・日本論」(『Voice』)などと特集した。
英オックスフォード大が公表している「Our World in Data」によると、23日現在人口100万人当たりの死者数が最も多いのが英国で628・2人。欧州で少ないドイツ106・2人。米国は363・8人。日本は7・6人(韓国5・5人、中国3・2人、台湾0・3人)と桁違いに少なく、「未知のウイルスとの闘いは誤算続き」(官邸筋)だが、オーバーシュート(爆発的な感染拡大)も医療崩壊も回避できた。
PCR検査率は低く、外出制限などの強制力もないにもかかわらず、日本の死者が少ない謎について劇作家・評論家の山崎正和は『中央公論』で、「『緊急事態宣言』後の日本人の行動ぶりは国際的に見ても良識に満ちている。アメリカやインドで外出自粛への反発が強まり、デモや暴動が起こったりしているのを見るにつけて、繁華街も観光地も閑散とさせ、学習塾や老人介護施設の一部自主休業にまで甘んじた自制心は特記に値いする」と、良識ある自制心を原因に挙げた。
さらに山崎は、「日本人の良識と自制心は長い歴史を持ち、ラフカディオ・ハーンの見聞記にも記録されているが、現に今、静かに発揮されている公徳心はやや後にあらためて養われたものだ」と論じた。
そのうえで、前回の東京オリンピック前の1960年代前半の東京では、街や水路にゴミが散乱していたが、「日本人の社会感覚が顕著に変わり、美と倫理の基準が新しく芽生え直したのは、私の記憶では一九七〇年代の初めではなかったか」と指摘した。
また「八〇年代には、銀座で立ち小便をする紳士の姿は消え、交通渋滞に苛立ってクラクションを鳴らす運転者は皆無となった(中略)。ボランティア活動が不動の風習となったのが(阪神大震災が発生した)一九九五年一月であり、その美徳はつい昨日まで栄え続けたのであった」と半世紀かけ公徳心を向上させたと解説した。