会場を包んだどよめきは消えない。続くロッテが「伊東」、広島は「長冨」。そして西武と阪神が「清原」を指名し、昭和54年の岡田彰布(早大)以来となる6球団競合となった。単独指名は横浜大洋と巨人と広島の3球団。
注目の抽選が始まった。各球団の代表者が〝運命の箱〟の前に立つ。南海は就任したばかりの杉浦忠監督。日本ハム・高田繁監督、中日・田村編成部長、近鉄・岡本伊三美監督、西武・根本管理部長、阪神・岡崎球団社長の6人。
「開けてください」のアナウンス。一瞬の静寂。そして、右手を挙げたのは西武・根本部長だった。「おおおっ」という歓声が西武のテーブルで上がった。
すぐさま「外れ1位」の指名が行われ、60年のドラフトの1位指名は次のように決まった。
阪 神 遠山 昭治 投 八代第一
広 島 長冨 浩志 投 NTT関東
巨 人 桑田 真澄 投 PL学園
大 洋 中山 裕章 投 高知商
中 日 斉藤 学 投 青学大
ヤクルト 伊東 昭光 投 本田技研
西 武 清原 和博 内 PL学園
ロッテ 石田 雅彦 投 川越工
近 鉄 桧山 泰浩 投 東筑
阪 急 石井 宏 投 日大
日本ハム 広瀬 哲朗 内 本田技研
南 海 西川 佳明 投 法大
1位指名が終わるとまた、会場が騒然となった。各球団の担当記者たちが一斉に取材を開始したからだ。聞きたいことはもちろん、自軍の指名選手のことではない。「巨人の桑田指名」についてだった。
西武・根本部長「あれだけ進学と言っていたのに。巨人さんはさすがですね。あり得るとは思っていたけど」
広島・木庭スカウト「ア然としたね。PLや桑田君の意思を信用していただけに…」
阪神・渡辺スカウト「どこかの球団が行く(指名)のではないか、巨人か西武とは思っていたよ」
そして多くの記者団に取り囲まれた巨人の伊藤菊スカウト(関西担当)はこう答えた。
「桑田獲得は無理だと何度も報告したつもり。取れ-といわれても、自信があるとは正直いえない」。苦しい弁明だった。
やはり巨人と桑田の間には〝密約〟があったのか。清原の心境は、桑田の表情は…。テレビ中継の画面も会見場のPL学園に切り替わった。(敬称略)