勇者の物語

V旅行宣言 「連れて行ったるで!」これが阪急 虎番疾風録番外編2

雪組娘役トップの真彩希帆の退団会見で真彩(左)にハンカチを手渡す小川理事長=2月18日、宝塚歌劇団(山田喜貴撮影)
雪組娘役トップの真彩希帆の退団会見で真彩(左)にハンカチを手渡す小川理事長=2月18日、宝塚歌劇団(山田喜貴撮影)

■勇者の物語 プロローグ

球団納会をこっそりのぞいたばっかりに、とんでもない展開である。首脳陣たちはすっかりお酒がまわって、何か余興が始まるのではないかと楽しそうに手を叩いている。

「はじめまして、サンケイスポーツの田所です。昭和31年生まれの29歳。先月までタイガースを担当していました。ご存じのように阪神はことし21年ぶりのリーグ優勝を果たし、球団初の日本一にもなりました。そして、きょうは特別な日でした」

60年12月14日、この日、阪神の選手たちはハワイへの〝優勝旅行〟へ旅立った。1軍はもちろん2軍や裏方まで全員が家族同伴。総勢186人が兵庫県伊丹市の大阪国際空港から午後7時過ぎ、2便に分かれて7泊9日の旅に出発した。

ハワイでは選手はゴルフ大会、家族は観光やショッピングが企画され、宿泊はプライベートビーチのある超豪華ホテル。経費はお買い物代を除いてすべて球団もち。渡航費と宿泊費が1人50万円で9300万円。それにディナーパーティーやゴルフコンペの経費を足すと総額は1億円を軽く超えた。

当然、筆者も優勝旅行に行けると思っていた。ところが直前になって「阪急」への担当替え。V旅行だけは…と懇願したが、上司の答えは「未練や」の一言。代わりにハワイへは広島カープを担当していた後輩が同行した。

「優勝旅行へ行けなかった悔しい思いを、ぜひ、ブレーブスで晴らしたいと思います」。挨拶を終えると会場が少し静かになっていた。上田利治監督が立ち上がった。

「みんな、聞いたか。われわれの力で田所君を来シーズン、V旅行へ連れて行ってやろうやないか」

「オオッ!」「まかしとけ、連れて行ったるで!」

<これが阪急…>筆者は頭のてっぺんから足の先までしびれあがった。そして、宴会場へ引っ張り込んだ小川広報課長に感謝した。

小川友次(ともつぐ)、31年9月12日生まれ。筆者と同い年で慶大野球部出身。愛称「ユウちゃん」。一気に仲良くなった。小川は球団売却後、電鉄本社に復帰。宝塚歌劇団の総支配人や梅田芸術劇場の社長を歴任。現在、歌劇団の理事長を務めている。(敬称略)

■勇者の物語(3)

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