■だから寓話は廃れない
さまよう心の対処法本は多く出版されているが、実際に気分が軽くなり、やる気が出るものは意外と少ない。その点、本書は簡単に読めるが実用的だ。
まず世界各国の諺(ことわざ)や偉人たちの名言を一言添え、中心に「イソップ寓話(ぐうわ)」という誰もが触れたことのあるものを配置、その双方をわかりやすい解説でもうひとまとめ。人間の不変的部分を根底に、より良い考えや行動を教えてくれる。著者の類似本を何冊か拝読しているが、今までの積み重ねを生かした親切設計である。
序文から「読書家で有名だった米国の石油王ジョン・ロックフェラーは、いつも机上に『イソップ寓話』を置いていた」という魅力的な逸話を紹介。人間の本質を突いたイソップ寓話には、知恵が詰まっている。動物での例え話も多く、普通は擬人化されないものもある。私は「足」と「胃袋」が言い合いする話が好きだ。
足は「自分の筋肉はたくましい」と誇り、胃袋は「食べ物の消化でずっと働いているよ」と強さを語る。すると足は「自分が支えてやらねば胃袋は存在できない」と息巻き、「僕が栄養を送らなきゃ君も存在できない」と胃袋は言い返す。
全く別の部位・役割だが、対等で「持ちつ持たれつの関係」であると実感する。これが生命に直結する部位、例えば「心臓と脳」では多分面白さが半減するだろう。「足と胃袋」は体の中で小市民っぽく、組み合わせのユーモアが秀逸だ。
全編を通して「良い生き方」は一貫している。人に親切にしよう(いつか自分に返ってくる)。嘘はつかない方がいい(窮地を脱するには知恵を使おう)。心配するよりやってみよう(考えなしも、考え過ぎもダメ)。人に流されすぎてはいけない(時として忠告は聞くべし)等々。
読むのは簡単。しかし、いざ実行できるかというと…。だから寓話はコンテンツとして廃れず、現代にも通用するのだ。
名言部分では阪急グループ創始者、小林一三氏の言葉が今の身に染みた。〈金がないから何もできないという人間は、金があっても何もできない〉。不満をこぼす前に、まず自分のできることをやる人間でありたい。(海竜社・1300円+税)
評・美村里江(女優、エッセイスト)