話の肖像画

作家・篠田節子(64)(1)コロナ禍を予言「夏の災厄」

(荒木孝雄撮影)
(荒木孝雄撮影)

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《多彩なジャンル、テイストの作品を書き続けるこの作家の魅力は「怖さ」にある。ホラーや犯罪だけじゃない。家族の葛藤を描いた場面に読者の背筋を凍り付かせる地雷が埋め込まれていたり…。25年前(平成7年)に出た小説『夏の災厄(さいやく)』も相当に怖い。何しろ今、世界中を恐怖のドン底にたたき込んでいる新型コロナウイルスの問題を連想させるのだから》

作家になる前、市役所に勤めていて、保健予防課という部署にいたことがあります。インフルエンザの集団予防接種などがあると、私も「現場の事務屋」として一緒についてゆくんですよ。そのときの経験も参考に、エンターテインメントを意識して書いた小説でした。

《舞台は関東近郊の小さな街。嗅覚の異常や高熱、頭痛などを訴える患者が相次ぎ、死者も出るが、原因が分からない。病気が広がり、地域への差別や犯罪、自殺が多発しても、政府の腰は重い。独自に動き出した現場の医師や看護師、市職員らは、ある機関によって密(ひそ)かに作られ、誤って流出させてしまった新種のウイルスが感染源という衝撃の事実にたどり着く》

「現場の視点」から書くことでよりリアリティーを持ったものになると考えました。当時のパニック小説には国のトップや高名な研究者が大活躍しちゃうような内容が多かったのですが、「実際は違うだろう。(感染拡大が)始まったら絶対にそんなふうには動かない」という確信がありました。ハリウッドのヒーローもの的な小説にはしたくなかったのです。

ただ、最初は、どこの出版社に持ち込んでもダメ。当時、はやっていたのはライトミステリーやバイオレンス。もしくは「女流」の枠で、「都会のOLの恋愛や日常を描いてほしい」と求められましたが、この小説は(そのニーズから)大きく外れているわけですよ。