外交安保取材

「主権を有する島々」は北方四島? それとも二島?

国後島・古釜布の町並み=平成26年8月(鈴木健児撮影)
国後島・古釜布の町並み=平成26年8月(鈴木健児撮影)

旧ソ連時代を含め、ロシアに長らく不法占拠されてきた北方領土は、先月19日に閣議に報告された外交青書で「わが国が主権を有する島々」と記載された。領土である以上、当然だが、「島々」が何かは明示されず、「四島」かどうかさえわからない。交渉を続けるロシア側に配慮するあまり、日本側の立場が後退したようにも映るが、政府の主張はこれまでも大きく揺れ動いてきたのが実態だ。

昭和32年以降、毎年発行される外交青書は、その時々の外交方針や活動の成果を内外に発信する外務省の刊行物だ。令和2年版は、各国との二国間関係の現状に加え、昨年6月に大阪で開催した20カ国・地域(G20)首脳会議や8月に横浜で開いた第7回アフリカ開発会議(TICAD)なども掲載している。

前年の行事を除けば、構成も項目も内容も毎年似通っているが、各項の行数や表現などは微妙に異なる。「ページの割き方や細かい言葉遣いにメッセージを込める」(外務省幹部)とされ、各国が時に自国に関する記述に反発するのはそのためだ。

日露関係をめぐる記載にも、昨年と今年で変化があった。「北方領土はわが国が主権を有する島々」と日本の法的立場を書き加えたのは、その最たるものだ。昨年は日本の立場にはまったく触れていなかった。

かつては「日本固有の領土」「四島は日本に帰属する」と明記してきたにもかかわらず、昨年版でそうした記述を削除したのは、北方領土返還に向けた平和条約締結交渉が軌道に乗り始めたことが背景にある。平成30年11月、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領は交渉の加速化で合意し、河野太郎外相(当時)とラブロフ外相をそれぞれ交渉責任者に指名した。

翌31年1月以降、交渉が本格化し、同年4月に閣議で報告した青書には、日本の立場を書かなかった。ロシア側が「南クリール諸島(北方領土の露側呼称)は第二次大戦後、合法的に露領となった」と反発するのは目に見え、交渉の扉を閉ざしかねないからだ。

河野氏は国会で北方領土に関して問われても、「交渉の場以外のところで政府の考え方、方針を申し上げるのは差し控える」と明確な答弁を避けた。こうした政府の姿勢は国内で「領土問題で譲歩している」との批判を招き、「二島の返還で手を打とうとしているのではないか」との疑念も生んだ。