新章 働き方改革

ITジャーナリストのポイント解説(5)「withコロナ時代のニューノーマル~オフィス環境をどう変えるか」

政府の緊急事態宣言が全面解除され、出勤抑制や外出自粛の緩和で通勤の風景が少しずつ戻ってきた。しかし、企業には感染を引き続き抑制しながら、事業活動を続ける「ニューノーマル(新常態)」の模索という新たな課題が突き付けられている。約2カ月の緊急事態を終え、「withコロナ」時代に移行するなか、働き方はどうあるべきか。これまでテレワーク環境の整備を解説したが、今回は出社再開後のオフィスの在り方を改めて探りたい。

ポイント1:ソーシャルディスタンスを基準としたスペース活用

オフィスで久しぶりに仕事すると、隣席の近さや会議室の狭さに戸惑う人が多いのではないだろうか。集団感染のリスクのある「密」を避けるため、レジ待ちの列や飲食店、電車までソーシャルディスタンスの確保が根付くなか、従来のスペース活用の常識は通用しなくなっている。

オフィスのデザインやシステム設計を手掛ける内田洋行の矢野直哉・第二企画部長は「これからは科学的知見に基づくオフィスの運用が大切になる」と指摘する。

例えば、同社は従来、席を固定せず仕事内容によって作業スペースを選ぶ「アクティブ・コモンズ」という考え方で自社オフィスを設計。あるフロアでは所属社員88人に対し、個人58席とミーティングスペース2カ所(12席)の計70席を設置していた。

固定席に比べて、柔軟で効率的なスペースの活用法と考えられていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で見直しが必要になった。

同社は緊急事態宣言下で、社員の間隔を「最低2.5メートル」は確保すると規定。結果、フロアの席数は個人16席、ミーティングスペース6席の計22席まで限定された。出社可能な社員の割合も最高25%と大幅に下がったが、出勤抑制で実際は12%にとどまったためスペースに支障はなかった。

しかし、withコロナの局面に入り、出社の可能性も視野にレイアウトを修正。ソーシャルディスタンスの目安である「2メートル」の間隔を確保しつつ、一定の社員の出社を想定し、一部の席はアクリル板を設置してフロア内に個人30席、ミーティングスペース7席を確保した。出社可能な社員の上限は42%に増えたが、「引き続き時差出勤やテレワークの活用が不可欠」(同社)。

矢野氏は「社員の安心・安全が最優先だが、働き方やオフィスの変革の本質は生産性を高めること」と強調する。科学的に感染防止策を採りつつ、快適な作業や円滑なコミュニケーションを可能にするバランスが求められる。

ポイント2:ウェブ会議に適したスペースにニーズ

オフィスの役割のうち、大きな部分を占めてきたのが社内外の会議だ。だが、テレワークの普及で、ウェブ会議の利用が拡大。密集、密閉の代名詞のような大人数が集まる会議室のニーズは大幅に低下している。

ただ、新たなニーズも生まれている。例えば、内田洋行は5月、コミュニケーションアプリ「Microsoft Teams」のオンラインセミナー参加者を対象にアンケートを実施。ウェブ会議で困っていることという質問に、回答者177人のうち2割以上が「自席では参加しにくい」を挙げた。

また、10人以上が「会議室がない」と回答した。大きな会議室は必要ないが、電話や会話など周囲の雑音を遮り、集中できる個室や仕切られたスペースに需要が移っているようだ。

実際、新品のオフィス家具レンタルサービス「トレンドレント」を展開する同社には、遮音性の高いセミオープンスペース形式のブースに対する問い合わせが急増しているという。ネットワークビジネス推進統括部の村田義篤部長は、「当社でもブースは人気で、1日に8件のウェブ会議で占有する社員もいます。今後はスペースの確保に加えて、ITを活用した社員の位置情報や行動履歴などの管理も重要になるでしょう」と話す。

テレワークの普及で、オフィススペースの必要性が低下し、削減も指摘される。だが、費用削減や面積の縮小という物理的な効率化を考えるだけでは、成果は生み出せない。働き方の変化に合わせ、いかに使いやすく、創造性を刺激する空間をデザインできるかが問われる。

ITジャーナリスト 田中亘(たなか・わたる)
 1961年、東京生まれ。パソコン販売、ソフト開発などを経て、1989年からITライターとして独立し、「できるWord」シリーズなど著書多数。