深層リポート

世界で例のない「イネの初冬直播き栽培」 実用化へ光明

 「この農薬の出芽率向上のメカニズムは今後研究する必要があるが、最も懸案だったコーティング材にメドがたったことで実際の農作業に初冬直播き栽培をどう組み入れていくか、次のステージに進むことができる」と下野教授は実用化に自信をのぞかせる。

3、4割の経費削減

 農業現場でも実用化に期待が膨らんでいる。下野教授の論文に賛同、研究に参加しているミウラファーム津軽(青森県弘前市)の三浦裕行社長(47)もその一人。同社のコメの栽培面積は80ヘクタール。このうち2ヘクタールで業務用米を初冬直播きで試験栽培している。

 弘前市は豪雪地帯。分厚い積雪が断熱材代わりとなって種籾を冬の寒さから守り、コーティングなしでも出芽率は20~30%。10アール当たりの収量も500~600キロで通常の稲作栽培と遜色ない。

 「初冬直播きは業務用米と飼料用米向き。実用化できればビニールハウスで1カ月近くも温度管理や水管理に手間がかかる育苗が省ける。10アール当たり15キロから20キロ播いている種籾も出芽率が40%になれば10キロに減らせる。3、4割の経費削減が期待できビジネスとして十分やっていける。春に集中する農作業を初冬に分散できれば、一層の大規模化も図れる」と三浦社長。

 農家の高齢化と担い手不足で進む農地の集約化、一日も早い実用化が待たれる。

記者の独り言】 北海道東部の冷涼な筆者の故郷ではコメがとれない。田んぼもない。田植えや稲刈りは別の世界のことだった。なじみのないコメの原稿は苦手にしてきた。ところが、イネの初冬直播き栽培は違った。手間とコストのかかる育苗と田植えを省く狙いが明確で分かりやすかったからだ。関係者も田植え時期の忙しい中で、快く取材に応じてくれた。素直に早い実用化を期待している。(石田征広)

イネの直播き栽培】 農林水産省によると、イネの直播き栽培は年々増え、平成29年度は全国の約3万3千ヘクタールの田んぼで行われている。全国の作付面積146万ヘクタールの約2・3%に当たる。春の直播き栽培で出芽率は70~80%。通常の田植えに比べると、労働時間を約2割を短縮でき、10アール当たり生産コストを約1割削減する効果があるとしている。

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