新型コロナウイルスをめぐる緊急事態宣言の解除が見送られた県内では21日、落胆が広がったが、新型コロナの感染拡大に伴い、横浜中華街(横浜市中区)がやり玉に挙げられたように、危機に便乗する形で外国人へのヘイトスピーチや差別が相次いでおり、インターネット上ではデマも拡大している。放置すれば憎悪犯罪(ヘイトクライム)に結び付く恐れもあり、識者は「国や自治体が事実を明確に示すべきだ」と警鐘を鳴らす。
「早く日本から出ていけ」。3月上旬、横浜中華街で複数の店に中国人を中傷する手紙が届いた。差出人は書かれていなかった。コロナの影響で客足が減少するさなかの出来事。「横浜中華街発展会協同組合」の職員は「店の売り上げが落ちて苦しい状況が続く中、残念でならない」と声を落とす。
■「許せない」
横浜市の林文子市長は、手紙はヘイトスピーチに当たると判断。記者会見で「許せない。重大な人権侵害だ」と非難した。
自治体の対応がヘイトスピーチを招いた例もある。ある自治体が3月、幼稚園や保育園へマスクを配布した際、朝鮮学校の幼稚部を対象から除外した。学校関係者が抗議すると一転、この自治体は配布を決定。だがその後、学校には「国へ帰れ」「ただでは済まさない」などと脅迫めいたメールや電話が殺到した。
政府が打ち出した全国民への一律10万円給付をめぐっては、国会議員による差別発言が波紋を広げた。3月下旬、自民党の小野田紀美参院議員が「『日本国籍を持つ成人』が絶対にして唯一の条件」などとツイッターに投稿。「人種差別だ」と批判の声が上がった。
総務省はその後、住民基本台帳に登録されている定住外国人も給付対象との方針を発表したが、ネットでは「外国人への支給大反対」といった書き込みがあふれた。
■「大半は日本人」
差別をあおるデマも。厚生労働省が発表していた新型コロナ感染者の国籍内訳で、半数以上の国籍が未確認だったことから「外国人が病床を占拠している」といった誤情報がネットで拡散。同省の担当者は「自治体によって国籍を報告していないだけで、未確認の大半は日本人だ」と話す。
外国人差別に詳しい龍谷大の金尚均教授(刑法)は一連の事態について「危機に便乗し、鬱積した差別的感情を吐露する形での排除で、『自分たちは中国からもたらされたウイルスの被害者』などと差別を正当化する例も見られる」と指摘。「ファクトチェックをした上で正確な情報を市民に伝えることが、差別をなくす環境づくりにつながる」と話している。
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◆新型コロナウイルス感染症
中国湖北省武漢市で発生し、世界中に広がった新型コロナウイルスによる感染症。日本国内では1月16日に患者が初確認された。世界保健機関(WHO)は3月11日に「パンデミック(世界的大流行)」と表現。先進7カ国(G7)首脳は同16日に緊急テレビ電話会議を開き、感染拡大防止に取り組むとした共同声明を発表した。