書評

『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。』姫路まさのり著 軽快な筆致に手放しの拍手

姫路まさのり著「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」(新潮社)
姫路まさのり著「障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。」(新潮社)

 □『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。ソーシャルファームという希望』

 障がい者の多くは、養護学校を卒業すると「障害者作業所」に通い、封筒張りや試供品の袋入れなど民間企業の下請け単純作業をする。支払われるのは、賃金ではなく「工賃」で、驚くほど安い。最低賃金の10分の1以下のところもある。

 10年前に、脳性麻痺(まひ)の息子を持つ友人から常識と聞いた、障がい者を取り巻く状況は、今は昔なのか。本書は、障がい者がしっかり働き、自立できる給料を得ているビジネスの成功例の活写である。1話目から驚かされる。

 京都府舞鶴市に、18年前から行列のできるフランス料理店があり、約20人の知的・精神・身体障がい者が働いている。客は、障がい者を応援しようと店に来るのではなく、味もサービスも一流だから詰めかける。

 シェフは「障がい者が給料を取れる店に」という経営者の思いに賛同したすご腕の健常者だが、彼の料理を生かすも殺すもサービスにかかっている。グラスを一点の曇りもなく磨くのはトゥレット症候群(チック症が慢性化・重症化)、テーブル・セッティングや皿洗いに専心するのは鬱病、フロア全体を完璧に気配りするウエイターは精神障害の人といったように、この店では、障がい者の潜在能力を引き出し、伸ばし、サービスを作り上げた。おかげで一流店となり、利益があがり、皆に相応の給料が支払われる。

 面白いのは(という言い方は失礼か?)、給料の増額につれ、目に見えて障がい者スタッフのモチベーションが上がることだ。「5万円で生活が、8万円で未来が、10万円で働き方が変わる」と。膝を打つ。働く→収入を得る→自己認証→より一所懸命に働く、と、良きスパイラル。

 他にも、年商2億円を達成したクッキー工場、重度四肢麻痺者を主力とするコンピューターハウスなどが紹介され、手放しの拍手を送った。しかし、その後、いや、ちょっと待てと。

 これらが突出例だということは、まだまだ冒頭に書いた10年前の常識がまかり通っているということだろう。どんどん後に続け、と願うばかりだ。

 著者は関西のテレビの情報番組を担当する放送作家。重いテーマを軽快な筆致で読ませる。(新潮社・1364円+税)

  評・井上理津子(ノンフィクションライター)