新・仕事の周辺

鳥山玲(日本画家) 宣言下で得た「小さな旅」

鳥山玲
鳥山玲

 片付け、が苦手である。

 時は緊急事態宣言下。絶好の機会と、ここしばらく、たまりにたまって難儀していた本や資料のカタをつけなければと観念着手したはずだったが…。

 5年ほど前、突然に絵描きでありながら美術館の館長も務め、美術館運営に携わることとなった。長年、自由業の身でいたが、組織にも属し、展示企画をはじめ教育普及や美術館周辺の社会連携などにも目配りする椅子に座ることに。無謀にも気安く引き受けてしまったことに反省しきりは後の祭り。

 やむなく、柄にもなく懸命に勉強に励み、まだまだ道半ばではあるが、何とか責任重い使命と役割に取り組んでいる。

 そのためにわかに集めた資料や本は、割いた時間と傾けた熱意の総体を物語るかのように、涙ぐましい格闘の証しとしてうずたかい山となっていた。

 その間、振り返ってみると、本分である創作は、専門の日本画制作での花鳥画は大作から小品までおしなべて仕事量は減少していた。半面、新しく拓(ひら)きたい仏画や装飾料紙の試み、水墨表現、ガラスやオブジェなど、制作の間口は広げつつ細々ながらも試行錯誤を重ねていた。

 われながら気の多さにあきれてしまう。当然の帰結としてそれらにまつわる以前からの本やドローイングなど、紙物資料の類のとっ散らかり方もハンパでなく山のように堆積。気を取り直し一旦は種分けを試みたものの手の施しように窮し、しばらくは嵩高(かさだか)な山を遠巻きに眺めたり、足早に山の裾野をすり抜けたりして過ごした。

 頭の整理も気持ちの整理もおぼつかなく持て余しているうちに、山の中から懐かしい数冊を発見。中村真一郎『王朝物語』や大岡信『うたげと孤心』は、初めて手にしたはるか昔日を、その時に感じた光や風を伴って鮮やかに蘇らせてくれた。

 それらの本が、長い時間を伝って今の自分と確かにつながっていることに改めて驚かされた。思いがけなく、出会えた時空の存在。書物に内包された時空に再び巡り逢えるこの旅は、さらなる旅への意欲をかきたたせ、恐る恐るながら次々に、山と成す塊の中から本や資料を手繰り寄せては開いてみる。

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