□『1964--日本が最高に輝いた年 敗戦から奇跡の復興を遂げた日本を映し出す東京オリンピック』ロイ・トミザワ著、来住道子訳
昨年、欧米などで発売された英文書籍の日本語訳です。いささか大仰なタイトルに度肝を抜かれるかもしれませんが、読み進むにつれ、あながち誇張ではないことをじわじわと実感するでしょう。
《瓦礫(がれき)と化した状態だった日本が(中略)これほど足並みをそろえ、誇らしい気持ちになれた年はなかった》と著者が記すように、日本人が一丸となってひとつの目標に向かい、胸が熱くなる成功体験を共有できた、今のところ最後の年であることに思い至るからです。
アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれた著者は、報道記者だった父が東京オリンピックの中継に携わっていたことや、開幕日に1歳を迎えたという縁から、アジア初開催のオリンピックを自ら執筆することにしたそうです。
元新聞記者のキャリアを生かし、16カ国、70人を超す元代表選手にインタビュー。今だから話せる本音や裏話をふんだんに引き出しています。緊張感と高揚感をもって準備に勤しむ日本人の様子も冷静に俯瞰(ふかん)しており、日本人による身びいき的な書籍とは一線を画する作品だと思います。
訳者は、歴史ノンフィクションを得意とする、私の古くからの友人。一緒に仕事をするのは初めてですが、彼女の繊細にして足腰の強い訳文は粘り強い調査に支えられていることを知りました。
東京2020は延期となりましたが、この60年弱の間に、日本社会が得たものと失ったものを確認できる格好の現代史だといえるでしょう。(文芸社・1300円+税)
文芸社企画編集室 壁谷卓
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