「この味忘れないで」飲食店奮闘 持ち帰りサービス拡大

真空調理したフランス料理の全国発送を始めた「ビストロ・ブワ・ド・パン」=東京都中央区(大竹直樹撮影)
真空調理したフランス料理の全国発送を始めた「ビストロ・ブワ・ド・パン」=東京都中央区(大竹直樹撮影)

 新型コロナウイルスの感染拡大で外出が自粛される中、客足が遠のいた飲食店では、テークアウト(持ち帰り)サービスを始める動きが広がっている。「この味を忘れないで」と宅配専門に業態変更する店も。休業に追い込まれる旅館やホテルが相次ぐ宿泊施業界では、高級な料理を家庭に届けるサービスも始まった。コロナ禍の収束後を見据えた関係者の模索が続く。

 「ランチやディナー営業ができないからと、このままじっとしていても仕方がない。前へ進むために業態を変更することにした」

 銀座に近い中央区新富町のフランス料理店「ビストロ・ブワ・ド・パン」のオーナー、堀田(ほりた)隆輔さん(43)は、4月8日から約1週間の休業を経て、13日から真空調理した料理の全国発送を始めた。

 ランチタイムはカレーなど一部メニューのテークアウトもあるが、「フレンチはテークアウトに向かないが、真空調理した料理なら、家庭で湯せんしたり焼いたりするだけで、お店の味を味わえる」と宅配サービスに力を入れる。

 SNS(会員制交流サイト)のフェイスブックやインスタグラムでは、調理の仕方を動画で紹介。メニュー作りは常連客も手伝ってくれたという。カモのスモークや牛ほほ肉のビール煮込みなど本格的なフレンチを家庭で再現できるとあって、四国や九州からも注文が寄せられている。堀田さんは「お店が復活したときにまたお客さんに戻ってきてほしい」と話す。

 2月にオープンしたばかりの築地のワインダイニング「ルオント」。守田晋吾さん(51)は「喰いつがないといけない」と4月20日から営業を再開したが、パスタやパニーニなどのテークアウト専門に業態を切り替えた。休業補償を受ける際に必要となる前年売り上げの実績がないため、「公的な援助がどこまで受けられるのかわからない」と頭を抱える。

 従業員の人件費や賃料など固定費も重くのしかかるが、「期限付きの酒類販売免許を取ってワインを販売する。足し算の発想で考えていきたい」と前を向く。

 炭火焼ホルモン「ぐう 築地」の店長、吉田宗大(そうた)さん(34)は「売り上げは半分に落ちたが、緊急事態宣言が解除されたら戻ってきてほしい」と店先で千円の焼肉弁当を並べた。

 観光庁の宿泊旅行統計(速報値)によると、国内の旅館、ホテルへ3月に泊まった人は前年同月比49・6%減の延べ約2361万人。4月以降もさらに落ち込む見通しで、宿泊業界は苦境に立たされている。

 「本当に悲惨な状況。何かマーケティングの足しにできないかとこのサイトを立ち上げた」と話すのは、高級宿泊施設予約サイト「Relux(リラックス)」を運営するロコパートナーズ(東京)の社長を3月末に退任した篠塚孝哉さん(36)。旅館などで提供される料理や食材を購入できる「TASTE LOCAL(テイスト・ローカル)」を立ち上げ、4月10日から販売を始めた。

 宿で余っていた千個のコロッケは20分で完売。料理長手作りの蟹山椒・但馬牛しぐれ煮の詰め合わせも約100個が販売開始後すぐに売り切れるほど好評という。篠塚さんは「高級宿の名物料理もお取り寄せできる。外出自粛はまだ続くが、家庭の食卓に少しでも彩りを添えていただければ」と話している。

(大竹直樹)

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