産経児童出版文化賞

大賞受賞の作家・花形みつるさん 看取った父、実像リアルに

【産経児童出版文化賞】大賞受賞の作家・花形みつるさん 看取った父、実像リアルに
【産経児童出版文化賞】大賞受賞の作家・花形みつるさん 看取った父、実像リアルに
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「どちらかというと個人的な内容を書いた本なので、大賞をいただいていいのかと驚きました。すごくうれしい」

印象的なペンネームは、子供の頃愛読した往年の人気野球漫画の登場人物から拝借したという。作家デビューから約30年。巧みな心理描写とストーリーテリングの妙に定評あるベテランだが、大正生まれの気難しい祖父「徳治郎」の晩年を孫の視点から描いた受賞作には、特別な思い入れがあると語る。徳治郎のモデルは、自身の父だからだ。

「大正11年生まれの父は、徳治郎と同じく頑固で怒りっぽい人でした。でも子煩悩で、休みにはよく山や川に連れて行ってくれた。その時の様子が、虫や魚を上手に捕まえたりと、いかにも昔遊び慣れた感じだったんですよ。後年、70代になった父に子供時代の話を聞いてみたらとても面白くて、それを書こうと思ったのがきっかけです」

表紙のイラストも、実は自ら筆を執って描いた父親の顔。作中の徳治郎像は、性格も経歴もほとんど父そのものという。自然の中での遊びを幼い孫に教えるなど80歳を過ぎても元気だった徳治郎が、心臓の手術をきっかけに弱っていき、やがてガンを発症して自宅介護の末に息を引き取る一部始終もまた、父を看取(みと)った体験に基づき美化なくリアルに描写される。

「人間ってこんなふうに死ぬんだ、というのを父は身をもって見せてくれた。死んでも故人の気持ちや生きた証は、関わりのあった人に何かしらつながっていく。そのことを伝えられたらと思いました」(磨井慎吾)

はながた・みつる 昭和28年、神奈川県生まれ。東京学芸大学卒。塾講師などを経て、昭和63年に作家デビュー。著書は『サイテーなあいつ』(産経児童出版文化賞推薦、新美南吉児童文学賞)など多数。

【講評】

徳治郎は、ボクの頑固者のお祖父(じい)ちゃんだ。気に入らなければ、すぐに怒鳴る。いまは中学生のボクが4歳からのことを振り返る作品は、それぞれの年ごろから見たお祖父ちゃんを描いていく。

ボクは、お祖父ちゃんと犬のシロといっしょに行った畑で、悪童だったお祖父ちゃんの「ちっせぇとき」の話を何度も聞く。ボクは、話のなかの子どものころのお祖父ちゃんにあこがれ、はげまされる。両親が離婚して母子家庭になったボクには、お祖父ちゃんは父でもあったのだろう。母や親戚の大人たちから聞くエピソードもふえて、お祖父ちゃんが自分の生き方をまげないプライドをもった人だということもわかってくる。お祖父ちゃんは、召集された軍隊で上官に盾突いて、半殺しの目にもあったらしい。そして、お祖父ちゃんは、最後の最後に、自分らしい死を家族に見せることになるのだ。

高齢化社会の日本で、老人の看取りを子どもの視点で描き切った、新鮮で深く心に残る作品である。お祖父ちゃんの畑へ行く道から見える富士山が印象的だ。(武蔵野大学名誉教授・宮川健郎)

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