試される国内製薬の創薬力 武田の新規コロナ治療薬、塩野義のワクチン…

グローバル化の後に見据えるものは

 武田薬品工業も、昨年買収したシャイアーの技術を活用しながら新型コロナの治療薬となる血漿分画製剤の開発を急いでいる。急激なグローバル化を進めてきた武田が次に見据えるのは、革新を生み出す真の力をつけること。新型コロナの治療薬開発でもその革新力が試される。

 「タケダの社長からお電話です」

 平成26年に武田の社長に就任する直前まで、英製薬大手、グラクソ・スミスクラインのワクチン社のワクチン部門トップを務めていたクリストフ・ウェバー氏のもとにある日、1本の電話がかかってきた。秘書は武田の長谷川閑史(やすちか)社長(当時)からだと言う。面識はない。「戦略的提携の話でもあるのか」と首をひねりながら受話器を取ると、「後継者を探しているが、あなたは候補の1人だ。興味はあるか」と聞かれた。驚いたが、新しい挑戦に心動かされた。

 武田は当時、創業家出身で社長を務めた武田國男氏から後継の長谷川氏へと構造改革、グローバル化を進めている過渡期にあった。新薬を生み出すために研究開発に巨額を投じなければならない製薬企業は規模を求めて、1990年代終わりから2000年代にかけて世界中で合併、買収を繰り返していた。武田はというと、海外の巨大製薬企業からの買収を阻止しながら、自らは海外市場に活路を求めていた。

 長谷川氏は「グローバル化して世界を牽引(けんいん)する会社になりたい」とウェバー氏に伝えた。その野心を実現する役割、可能性に興奮した。

 託された使命の一つは昨年、6兆円超でアイルランド製薬大手、シャイアーを買収し、統合したことで一区切りしたと考えている。しかしグローバル化は最終的な目的ではない。あくまで創薬力を高めるために必要な過程にすぎないという。

 「次のステップはイノベーション(革新)を生み出すことです。常に革新的な新薬候補を出し続けなければなりません」

 がんの免疫治療薬「オプジーボ」などで知られる抗体医薬や、1回の投与で2億円以上する遺伝子治療薬など、世界では画期的新薬が次々と開発されている。これ以上後れをとるわけにはいかない。

 買収したシャイアーの業績が加わって売上高が2兆円を超えた武田は昨年度、研究開発費を5000億円近くまで大幅に増額して見込んだ。4年前に米ボストンに研究拠点を集約したのも創薬力を高める戦略だ。日本から100人近くの研究員を送り込んで、世界の最先端で挑ませている。

 「日本からは、これから10年、20年後もイノベーションが出てくると信じています。革新を生むために必要な高度な教育制度や、医療制度が世界で最も整っている国の一つだからです。競争力は高い。経営層にも若い有望な日本人が育っています」

 革新を生み続けるために決まった処方箋はない。しかし、急速な変革を乗り越えた武田なら描ける新しい未来を見据えている。

 この連載は、井田通人、安田奈緒美、山本考志が担当しました。

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