未来を創る<5>
感染拡大する新型コロナウイルスに対して、世界で感染や重症化を防ぐワクチンや、治療薬の開発が進んでいる。国内でも、製薬企業や研究機関が開発に乗り出しているほか、大学と企業の産学連携で生まれた既存の薬の新型コロナ治療薬への転用の試みも始まった。ワクチン、治療薬を生み出す革新に期待が寄せられている。
国産ワクチン開発へ
塩野義製薬は4月27日、新型コロナの予防ワクチンの開発を国立感染症研究所と共同で行うと発表した。子会社が持つ遺伝子組み換え技術を用いてワクチンを製造するノウハウを利用する。年内の治験(臨床試験)を目指し、できるだけ早く1000万人規模で国産ワクチンを提供できるよう、体制を強化するという。
薬のまち、大阪・道修町に本社を置く塩野義は、もともと感染症領域の研究開発力で世界から注目される製薬企業だ。新型コロナに対しても強みを生かしたい考えで、研究開発を重ねてきた。ワクチン開発のほかにも、北海道大学との共同研究の中で今春、新型コロナに対して効果が期待される新薬候補を特定している。
「現在、このワクチンと治療薬のプロジェクトを最優先のプロジェクトの一つとして、加速しています」と手代木功社長は明かす。
塩野義は過去にもインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」をはじめ多剤耐性菌の治療薬、HIV治療薬など感染症領域の画期的な薬を次々と生み出してきた。
高い創薬力、革新を生み出すために「基礎研究を幅広く自由にやっている」と手代木功社長は語る。「科学、医療の見地で面白いこと、わくわくするデータに出合ったとき、それが社会、患者さんのためになるのであれば、会社の方針や形も変えることをいとわない。サイエンスは日進月歩。今日見えていないものが急に明日見えることもありますから」
関節リウマチ薬にも期待
一方、今、重症化した新型コロナウイルス肺炎への治療効果が期待されている日本発の薬がある。過剰な免疫反応に対して効果があるとされる、関節リウマチ治療薬の「アクテムラ」。大阪大元総長で同大免疫学フロンティア研究センター特任教授の岸本忠三氏(80)の発見がもととなった薬だ。