全国で深刻なマスク不足が続く中、鳥取市の縫製加工会社が販売する柿渋染めの布マスクが人気を集めている。廃棄される、間引いた柿を有効活用したもの。柿渋の消臭・抗菌効果が期待できる上、洗って再利用も可能といい、入荷1カ月待ちの状態となっている。同社は「一つ一つミシンで手作りしているため時間が掛かっているが、必要としている人に届くように作業を進めている」としている。
平安時代からの染料
マスクを製造するのは、鳥取市の縫製加工会社「ビッググロウス」。自社の工場では、従業員総出でマスクの縫製や発送などの作業に追われている。
柿渋は、熟れる前の青い渋柿をつぶした果汁を1~3年かけて発酵させた液。すぐれた防腐防虫の効果から、平安時代から染料などに幅広く使われてきた。マスクには柿渋の液で染めたオーガニックコットンを使用。購入者からは「柔らかくて肌ざわりが良い」と人気だという。
マスクは「柿渋の消臭・抗菌効果がいかせる」と平成29年から製造していた。これまでは主力製品ではなかったが、今年2月、花粉症シーズンを前にSNSで宣伝したところ、新型コロナウイルスの感染拡大もあって、注文が相次ぐようになった。手元に届くまでに1カ月待ちの状態が続いている。
同社の森田祐加社長(39)は「最初に関東から注文が入り始めた。こんなに極端に注文が増えるとは思わなかった」と驚く。
間引きの柿を活用
森田社長の叔父は、鳥取県八頭町で西条柿を栽培する柿農家。間引きや少しの傷でも出荷できない柿が廃棄されていることを森田社長が知り、商品開発に着手した。
平成27年に同社を設立。翌年に「やず柿のめぐみ柿っ子ちゃん」というブランドを立ち上げた。最初に柿渋染めの靴下を販売すると、足の臭いに悩む人たちから「臭いが消えた」と評判になったという。
現在は八頭町の農家から夏に間引いた約20トンの柿を購入し、委託先の工場で柿渋を製造している。
ただ、柿渋を使った製品の商品化に向けては、従来の柿渋染めでは色落ちやムラが起こりやすいといった課題があった。
問題を解決するため、糸に紡ぐ前の綿から染める「トップ染め」という独自の手法を開発。柿渋を棉の繊維一本一本に浸透させることで、洗濯しても色落ちせずに消臭・抗菌効果を持続させることができたといい、実用新案も取得した。