福岡県八女市にある国指定天然記念物「黒木の大藤」が花の盛りを迎えている28日、刈り取られた。新型コロナウイルスが感染しやすくなる密集を避けるための苦渋の決断で、住民らは「悲しい」と名残惜しそうに見守ったが、「来年はもっと咲く」と終息後への期待の声も上がった。
八女市の素盞嗚(すさのお)神社とその周辺には、樹齢600年を超す大木を含む約3千平方メートルの藤棚が広がる。長さ1メートルほどの淡い紫の花房が、甘い香りを漂わせて風に揺れる。4月中旬から5月初旬には「八女黒木大藤まつり」が催され、例年約20万人が訪れる。
まつり実行委員会は今月7日、感染拡大を受けて今年の開催中止を決定。しかし、その後も県外から観光客らが訪れ、先週土日の人出は約2千人に上ったため協議の末、泣く泣く刈り取ることを決めた。八女市では28日現在、まだ感染者が確認されていない。
作業には、美しい花を目に焼き付けようと住民が集まった。
近くのお茶店従業員、本司雅子さん(37)は「しょうがないと思うが、すごく残念」とカーテンのように揺れる花房を見上げた。
まつりの運営に長年携わってきた川嶋成幸さん(64)らによると、藤の花は刈り取ることで養分が蓄えられる効果もあるという。「来年はもっと多くの花が咲くと信じている。感染終息後はぜひとも多くの人に来てもらいたい」と訴えた。