ビブリオエッセー月間賞

3月は『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』 大阪府泉佐野市の車野喜咲さん

本にまつわるエッセーを募集し、夕刊1面とWEBサイト「産経ニュース」などで掲載している「ビブリオエッセー」。皆さんのとっておきの1冊について、思い出などとともにつづっていただき、本の魅力や読書の喜びをお伝えしています。3月の月間賞は、大阪府泉佐野市の車野喜咲さん(20)の『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』に決まりました。ジュンク堂書店のご協力で図書カード(1万円分)を進呈し、プロの書店員と書評家による選考会の様子をご紹介します。


<選者>

ジュンク堂書店難波店店長 福嶋聡さん

書評家・近畿大学非常勤講師 江南亜美子さん


福嶋さん 大事なこと素直に書く

江南さん 説得力増す自身の体験

――昨年4月に始まった「ビブリオエッセー」は丸1年、月間賞の選考会も12回目を迎えました。まずは全体の印象を

江南 今回は12歳から89歳までのエッセーが掲載されています。幅広い年代の方が参加し、本の分野もさまざま。レベルも高くなり、ありがたいことです。

福嶋 環境問題になるとつい説教じみた内容になりがちなのですが『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』は大事なことが、背伸びすることなく素直に書かれていてよかったと思います。『窓から逃げた100歳老人』は、朝読(学校での朝の読書の時間)が退屈で仕方がなかったという人のエッセー。子供にとって朝読って実際はどうなのかと思っていたので興味深かったですね。最後の部分でこの本は自分にとって「革命」だったとあります。一見大げさな言葉ですが、不思議と違和感がありませんでした。

江南 『世界でいちばん―』は、ご自分の体験がエッセーの半分を占めていて長いですが、乖離している印象はなく、説得力を増している。展開がスムーズです。

福嶋 引用した部分がうまい。「貧乏とは…」という1カ所だけなんですが、それだけでかなりのことがわかります。

江南 その引用が、「日本は貧乏な国だと思った」という実感につながり、ここは自分の意見だということがわかります。エコとかサステナブルといった時事問題に落とし込むエッセーは少ないので、その点もいいですね。汐(ちょう)文(ぶん)社(しゃ)という出版社は…?

福嶋 大手ではないですが歴史のある出版社で、『はだしのゲン』を出したところです。

――ムヒカ元大統領についての本は多いのですが、これは絵本です

江南 『しろばんば』もおもしろかった。意地悪おばあさん列伝のひとつととらえ、神田伯山や向田邦子の祖母の話まで出してきちゃう。独自の角度で書いた、技ありのエッセーという感じです。『しろばんば』ってそういう話?とも思いましたが、タイトルは誰でも知っている本の新しい魅力を伝えてくれたといえます。

福嶋 最後の「善意だけでもつまらない」という部分に共感しました。

江南 角度でいえば『サラバ!』もよかったけれど。

福嶋 直木賞受賞作ですが、西加奈子さんの代表作というと『通天閣』を挙げたいですね。あの乾いた終わり方がとても好きです。

江南 最近の直木賞作品を一気に読んだという冒頭のフリから始まり、男性の7作品と女性の4作品を比較する。誰も思いつかない、いままでにないタイプのエッセーでした。『吉井勇全歌集』は冒頭のヘレン・ケラーのエピソードがおもしろかったですね。この方の記憶力のよさがエッセーのあじわいとなっています。

――来日に合わせて子供たちにしおりが配られ、吉井勇の短歌も記されていたそうです

福嶋 総合的にみてやはり『世界でいちばん―』がいいのかな。

江南 大手の出版社でないところの、良書を選んだ点もポイントが高いです。

――決まりましたね


<作品再掲>

私たちにできることは

この絵本を読んでバイト先のことがよみがえった。

私はコンビニでアルバイトをしている。空港が近いため海外からのお客さまも多い。その日もマニュアル通りの丁寧な接客をしていると、美男美女の外国人カップルがレジ前にやって来た。

かなり商品を買っておられたので一番大きなレジ袋に入れようとすると、男性が「ノー、バッグ!」と言い、ポケットからエコバッグを取り出して商品を入れ始めた。

「エコバッグは当たり前やん」と思う方もいるかもしれないが、袋が有料だったりポイントが付いたりするスーパーならエコバッグを持つ人も少なくないだろう。しかし、うちのコンビニはそのような対策がまだないため、1本のペットボトルに袋を欲しがるお客さまがたくさんいる。

この絵本に登場するのは南米ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領。2012年、地球の環境と未来を議論した国連会議で行き過ぎた消費、浪費社会を批判し、本当の幸せを問いかけ、こう語った。

「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、無限に欲があり、いくらあっても満足しないことです」

絵本にはスピーチが全文掲載されているが、この言葉を聞き、日本は貧乏な国だなと思った。エコバッグを持てばいいだけなのにわざわざ袋をもらう。プラごみが問題視されているのに、まだ他人事だと思っている人が多いのではないだろうか。

この夏からほとんどのお店でレジ袋が有料化されるが、これからはバイト先でも積極的に声をかけてプラごみ削減に貢献したいと思う。


<喜びの声>

大阪府泉佐野市 車野喜咲さん(20)

ムヒカさんは笑顔の素敵なおじいちゃんで、こういう人が上に立ってほしいですね。大統領時代は古い車で仕事に通い、質素な生活を実践されていたことにも感激しました。スピーチは文明や環境問題の本質をやさしい言葉で鋭く語っていて、私たちが生活を変えていく必要性を感じました。大変な時期だからこそ読み返したい本です。今回は祖母がとても喜んで、掲載記事を切り抜いて額に入れてくれたそうです。そして再び。感謝でいっぱいです。