新型コロナウイルス問題の報道で、テレビが大きな影響力を及ぼしている。本欄は新聞批判の欄であるが、民放テレビのキー局は、新聞社と密接な関係にあるので、ここで取りあげることにする。
テレビには、コロナウイルス問題に関して実に大量の情報が流されている。ワイドショーにはいわゆるタレントも出演して勝手な感想をしゃべっているが、医学の専門家でも異なった見解があるのだから、タレントの存在は全く無用というより有害であろう。
ワイドショーは言わずもがな、純粋のニュース番組においても問題があると思う。私はかなり以前から、特に民放のニュース番組の変化がとても気になっていた。それはニュースの報道に、しきりに演出の傾向が見られるようになってきたからである。用意された原稿を読み上げて事実関係を伝えるニュースを「ストレートニュース」というが、以前はすべてこのスタイルだったと記憶する。それがいつしか過剰な演出が施されるようになった。
テレビであるから、映像に関しても問題はあるのだが、この際、私が注目したいのは映像の部分より、音声の部分である。それには2つの種類がある。
1つは、人間の言葉による説明で、アナウンサー以外の、「ナレーター」が多用されるようになった。しかもその調子が、盛り上げようとするためか、極めて情緒的、感情的である。つまりオーバーな表現になっている。
もう1つは背景音楽、つまりバックグラウンドミュージックである。暗いニュースの場合には、不安感をあおるような不気味な音楽が使用される。
以上のようなテレビのニュース報道の劣化が、いっそう顕著に表れたのが、今回のコロナウイルスの報道である。そもそも、深刻な問題であればあるほど、冷静に淡々と報道しなければならない。過剰な演出が加わると、それはドラマチックになって、かえってリアリティーが失われてしまい、本来持つべき警戒心も損なわれてしまう。
テレビのスタジオは、「3密」の典型的な空間であったが、3月末ごろから急に離れて座るようになった。つまり、それ以前は本気で取り組んでいなかった証拠である。
コロナウイルス問題が、当初よりかなり長期化せざるを得ないと予想される現在、テレビメディアには、演出を排した、一層冷静な報道姿勢が求められる。
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【プロフィル】酒井信彦
さかい・のぶひこ 昭和18年、川崎市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学史料編纂(へんさん)所で『大日本史料』の編纂に従事。