■新たなつながりが価値を創出
□崇城大学教授・星合隆成
少子高齢化による急速な人口減少、首都圏への一極集中に起因して、地域経済の縮小、多様な人材が活躍できる環境の劣化、持続可能なまちづくりや地域活性化の取り組みの低下など、多くの地方・地域が深刻な状況に陥っています。
このような問題の解決に向けた、地域創生の有効な手立ては、地域にイノベーションを創発することです。ここでいう、「イノベーションの創発」とは、「新たな観点や発想で新たな価値観を生み出す」ことを意味しています。
たとえば、クラウチングスタートは、短距離走において立ったままでスタートすることが常識の時代に、「手をついてスタートすることに価値がある」という新たな価値観を生み出しました。これは、近代五輪最初の大会として開催された1896年のアテネオリンピックにおいて、人々に大きな驚きを与えました。イノベーションは時として非常識な価値観であり、最初は人々からなかなか理解されないものなのです。
インターネットとスマートフォンの普及によって拡大している「シェアリングエコノミー」は、「モノを購入する」という価値観から、「モノを共有する」という新たな価値観を提案しました。新型コロナウイルスの影響が出る前にまとめられた総務省の情報通信白書によると、国内市場規模は、2015年度に約400億円であったものが、2021年までに約1100億円まで拡大すると予測されています。
このようなイノベーションは「技術革新」と「新結合」の二つに大別されます。技術革新は、「技術の進展による新たな価値観の創出」を意味します。たとえば、産業革命は技術革新によるイノベーションの顕著な成功事例と言えるでしょう。これについては次回、詳述します。
一方、新結合とは、「新たなつながりにより、新たな価値観を創出する」ことを言います。たとえば、サラリーマンの呼び出し用に開発されたポケベル(ポケットベル)は、女子高生と新結合することにより、数字の語呂合わせによるコミュニケーションツールとしての新たな価値観を創発しました。
この新結合によるイノベーションこそが地域創生の救世主になると考えています。地域に点在する地域資源を、新たな発想で新たに「つなげる」ことで新たな価値観を生み出すのです。そこで、地域イノベーションにおいては、「つながり」をどう実現するかが重要なテーマになるのですが、これまでは主観・直観・経験などに基づいたつながりの構築が一般的でした。そのため、つながりの持続性・再現性・汎用性・コストなどに問題を有していたのです。
この問題を解決するために提唱されたイノベーション創発のための理論が「地域コミュニティブランド(Social Community Brand:SCB)」です。SCB理論では、一過性のつながりとならないように、地域資源を科学的につなげることにより、高い持続性・再現性・汎用性を有するつながりを低コストで実現できるのです。
本連載では、そのSCB理論をわかりやすく説明するとともに、SCB理論実現のために不可欠な、最先端のネットワーク技術「P2P」(ピアツーピア)について丁寧に伝えたいと思います。
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【プロフィル】星合隆成
ほしあい・たかしげ 昭和37年、徳島市出身。工学博士。崇城大学(熊本)情報学部教授、早稲田大学招聘研究員。元NTT研究所主幹研究員・参与。世界初のP2P(ピアツーピア)ネットワークである「ブローカレス理論」の提唱者で知られる。