朝晴れエッセー

蝶のマスク・4月7日

プップー、プップー。ひっきりなしに鳴り響くクラクション。道路を埋めつくすオートバイの数に圧倒された。

10年前のホーチミン。ほとんどの人がカラフルな布製のマスクをしていた。バイク通勤のマストアイテムらしい。現地ガイドのリンさんも布製マスクを愛用していた。

「かわいい! そのマスク、自分で作ったの?」。私の言葉に恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかむ彼女。無事に旅を終え、空港に向かう途中、「買ったものですが…」と、彼女から差し出されたのは布製マスクだった。

赤白黒の大きめのチェック柄、ピンクの蝶のアップリケ、耳にかける紐(ひも)は黒色。日本でするには勇気がいるものだった。「お金を貯(た)めて日本に行くのが夢」と言っていた彼女に余計な出費をさせてしまった。だが、彼女の気持ちがとても嬉しく、写真とともに大事にしまっていた。

最近のマスク不足に、リンさんからいただいた「蝶のマスク」を思い出した。早速出して、洗ってみた。やや小さいが、キッチンペーパーを間にはさんでつけ、鏡を見てみた。「うわ、目立つ!」。でも、花粉症の私にはありがたい。マスクの方も、まさか10年たって出番がくるとは思ってもみなかっただろう。

「また来てね~」。明るく笑って見送ってくれたリンさんからのプレゼントを身につけると何だか元気が出る。先が見えず不安が募る日々だが、今できることをして、いつかまた楽しく旅ができる日が来ると希望を持って過ごしたい。

和田真理子 48 大阪府河内長野市