正論5月号

「官邸の検察介入」 無理筋のシナリオだ 産経新聞政治部次長 水内茂幸

 法務省関係者によると、検察首脳らは平成28年9月、林氏を検事総長の登竜門とされる事務次官に起用する方針を固めたが、省庁人事を一元管理する内閣人事局が却下。代わりに官房長の黒川氏が次官に昇格した。

 30年1月には上川陽子元法相が、刑事局長だった林氏と対立したことから同氏の次官就任を承認しなかったという。上川氏は国際取引をめぐる紛争を当事者間の合意で解決する「国際仲裁センター」の誘致に熱心に取り組んだが、林氏はこれを強硬に拒んだことが背景にあったとみられている。

 一方の黒川氏は「人たらし」の異名をとるほど永田町に幅広い人脈を持ち、特に菅氏とは親密な関係があるとされる。こうしたことが、検察内でやっかみを生んだとの指摘もある。

 同関係者によると、検察内部では、上川氏との対立の一件で「政権が林氏に×を付けた」という見方が広がり、黒川氏を次期検事総長とすべきだという声が強まった。林氏は、最終的に名古屋高検検事長へ異動した。

 林氏が、検察庁法で定める63歳の定年の誕生日を迎えるのは、黒川氏より半年後だ。黒川氏が総長に就任するには、稲田伸夫氏の早期勇退が必要だったが、稲田氏にその意思はなかったとされる。

 関係者によると、稲田氏は、4月に京都で開催予定だった刑事司法分野で世界最大級の国際会議「国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)」の出席にこだわっていた。引退への花道としたかったようだが、肝心の会議は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、延期となった。

 稲田氏が早い段階で勇退していれば、黒川、林両氏が順番に検事総長に就く道があったとの見方もある。しかし稲田氏がポストに居座った以上、黒川、林両氏の誕生日を検察庁法の規定だけにあてはめると、黒川氏が定年引退し、林氏が次官に就く流れだった。ここに、「政府が違法な手段で定年を延長した」と批判される原因がある。

定年に関する法解釈の変更

 官邸は本当に人事に手を突っ込んだのだろうか。黒川氏が政治の絡む事件に積極的に取り組む武闘派であることを踏まえると、野党のシナリオには無理がある。

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)をめぐる汚職事件では、黒川氏が東京高検検事長として捜査を実質的に指揮。検察内に慎重論もあった中で、自民党の秋元司衆院議員の逮捕に踏み切った。東京地検特捜部が現職の国会議員を逮捕したのは、約10年ぶりのことだった。

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