新年度を迎え、子どもの情報活用能力の育成に向けたプログラミング教育の必修化がスタートした。新小学5・6年生は算数や理科などの授業にプログラミングの思考法や体験を取り入れ、教材や試験なども順次デジタル化する見込み。「教育の情報化」を目指す政府が小中学生に1人1台のパソコン整備を進めるなか、家庭での準備の重要性は高まっている。AI(人工知能)やロボットなどが普及する将来を生き抜くデジタル活用スキルの獲得に向け、どんな取り組みができるのだろうか。
授業でゴミを分別する「エコロボット」製作
2018年11月、つくば市立春日学園義務教育学校(茨城)の教室。「環境教育」をテーマとした総合的な学習で、小学4年生がゴミの分別を促す「エコロボット」の製作に挑戦した。
主な構成はゴミ箱と、センサー付きのマイクロコンピューター「micro:bit(マイクロビット)」の2つのみ。ロボットと聞きイメージする部品の組み立て作業に代わり、子どもたちが熱心に取り組んだのがプログラミングだ。
グループで分別につながる仕掛けや設計を考えたうえで、パソコンに教材となるウェブサイト「MakeCode(メイクコード)」を表示。画面上の「LEDを光らせる」などブロックを順序だてて並べ、micro:bit(マイクロビット)の動作を決めるプログラムを組み立てる。専門的な言語は使わないが、仕掛けや設計からロボットの動作までの過程を学ぶ。
例えば、あるグループは空き缶をセンサーにかざしてスチール製とアルミ製を判別し、分別を誤って箱に入れるとmicro:bit(マイクロビット)が点灯して知らせるロボットをつくった。先生が「プログラミングを生かすととっても便利になるよね。自分の身近に感じてほしい」と語りかけると、大きくうなずく児童の姿がみられた。
この授業は、パソコンメーカーなどでつくる業界団体「ウィンドウズ デジタルライフスタイル コンソーシアム(WDLC)」が実施するプロジェクトの一環。プログラミング教育の普及を目的に一部の学校で進めてきたが、このような授業風景が今年度から全国で見られるようになる。
小学校を皮切りに始まった新学習指導要領は情報の活用能力を学習の「基盤」と位置付け、プログラミングを必修化。2021年度に全面実施する中学校は技術・家庭科の内容を拡充し、2022年度は高校で必修科目「情報I」を設置する。
これに伴ってキーボードやマウスで試験問題の解答を打ち込む「CBT(コンピューター・ベイスド・テスティング)」が受験にも順次適用される見通し。すでに英検やTOEFLなど主要な語学試験は取り入れており、導入の動きが広がりそうだ。
学習でのデジタル機器活用が遅れる日本
背景にはデジタル化の進展に伴う教育環境の変化がある。昨年12月に、経済協力開発機構(OECD)が発表した国際的な学習到達度調査(PISA)の結果が象徴的だ。
調査は2018年に、79カ国・地域の義務教育を修了する15歳約60万人を対象に「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3分野で実施。日本は数学(6位)、科学(5位)で引き続き上位につけたが、読解力は15位と前回(2015年)の8位から急落している。
日本の生徒は字句の意味など「理解する」能力は高いが、インターネットの普及で重要性が高まる「情報を探し出す」問題の平均点が低下した。例えば、ある商品について安全性を宣伝する販売元企業のサイトと、別の見解を示すオンライン雑誌の記事を提示。真偽の判断に必要な情報がどのサイトに記載されているか推測し、探し出す問題の正答率がOECD平均を下回っている。
PISAは前回からCBTを導入しており、日本の学校では少ない試験方式への「慣れ」も影響している可能性がある。このため政府は「GIGAスクール構想」として、国公私立の小中学校などに1人1台のパソコン端末を整備する方針。プログラミング教育や、教科などのICT(情報通信技術)活用を充実し、デジタル時代に適応した学力の向上を図る。
ただ、学校内の環境が改善しても、家庭など学校外の学習に課題は残る。OECDが平日の学校外でのデジタル機器利用状況を調べた結果、日本の子どもは毎日か、ほぼ毎日「チャットする」が87.4%、「1人用ゲームで遊ぶ」が47.7%とOECD平均より20ポイント以上高い。スマートフォンやタブレットでも利用できる娯楽的な内容が中心の姿が浮かび上がる。
一方で、ほかの国に比べて宿題や資料をネットで探すなどCBTの対応力につながる項目が3~6%と極めて低い。文部科学省は「学習活動におけるデジタル機器の利用がほかの国に比べて低調なことは明らか」と指摘する。
家庭で楽しみながら学べる特設サイトも
これに対し、WDLCは国際化がいっそう進み、AIなどが普及する時代を生きる子どもにとって、「デジタル活用スキル」の必要性を訴える。なかでも3つのスキルを強調し、家庭でもパソコンに慣れ親しむよう呼びかけている。
まず、操作の基本となるタイピング。文科省は生徒用コンピューターの機能として小学3年生以上はキーボードが「必須」という考え。スマホのフリック入力から覚えた子ども世代はタイピングに苦手意識を持つこともあり、家庭での環境づくりで差が付く可能性がある。
次に、Officeソフトの操作を挙げる。文科省はワープロや表計算、プレゼンテーショなどを「教科横断的に活用できる学習用ソフト」と位置づける。OfficeはワープロソフトWordや表計算のExcel、プレゼン用のPowerPointをそろえるうえ、職場などで使った経験のある親が操作を教えられるメリットもある。
最後はプログラミング的思考。問題を解決するためには、ものごとをどう組み合わせて、どんな順番で改善していけばよいのか考える能力は授業のみならず、日常の生活でも養うことができる。
例えば、家庭で親子が楽しみながらプログラミングを学ぶ特設サイト「CODEPARK」は、micro:bit(マイクロビット)と100円ショップで手軽に購入できるものを使って早押しボタンなどの作り方をまとめたドリルを掲載している。準備に必要なことや手順を確認しながら制作することで、プログラミングの思考法を自然に体験できる。
今春にはアンバサダーの東大卒クイズ王、伊沢拓司さんが出演する動画の第3弾として「みんなで遊ぼうmicro:bit運動会」を公開。micro:bit(マイクロビット)をプログラミングして作った「もぐらたたき」「宝探し」「障害物競走」で、伊沢さんと子どもたちが対決し、身近な遊びにも活用できる魅力を伝えている。
サイトでは子どものやりたいことに応じた性能の目安や有害サイトへの対策も示しているので、パソコン選びにも役立つ。
経済産業省によると、システム開発や保守運用からAIサービスを担う「IT人材」は2030年に最大約79万人の不足が見込まれている。プログラミング教育で「読み、書き、そろばん」が「読み、書き、パソコン」に代わる時代を迎え、家庭のIT環境が子どもの将来にも影響しそうだ。
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提供:WDLC