朝晴れエッセー

315(さいこー)の日曜日・3月31日

娘が奈良公園に行ってみたいと言い出した。どうやら鹿に餌をあげたいらしい。小さい頃に行って鹿に追われて泣いた記憶はないようだ。

テレビの特集でも聞いてはいたが、外国人客が減って餌をもらうことが少なくなったせいか少々強引に餌を奪う鹿もいるらしく、気をつけようと言っていた矢先、娘は早速囲まれてキャーキャー慌てふためいている。

何ともインパクトのある思い出になったねと話をしていた帰り道のことだった。

大通りに出てしばらくのところで盲導犬を連れた女の人が歩いてきたのだが、気の荒い鹿が盲導犬に飛びかかり威嚇し始めた。あっと思った瞬間、ボランティアの人だろうか、水色のはっぴを着た若い男の人が鹿の前に出て盲導犬をかばい、「かわいそうに、怖かったな」と背中から抱きしめ、そのまま女の人を道の途中まで送り出した。

よかったと胸をなで下ろしたがそれだけでは収まらなかった。歩きながら気になって振り返ったとき、女の人は横断歩道を渡っていたが途中で信号は赤になってしまった。盲導犬も動揺していたのだろう、その場に座ってキョロキョロしている。

車もどうしていいか、その場に居た人が一瞬とまどいの後、さっきのお兄さんが勢いよく飛び出してきて女の人を向こう側に渡してくれた。

誰もが心に思っていてもすぐに行動に移すのは安易ではない。一瞬の判断で行動したお兄さんを見て同じような状況にあったとき、自分だったら何ができるのか、どうするのかを問う。そんな人を評価できる社会になったらいいな。お兄さんに幸あれ。そう思った3月15日。最高の日曜日。

星野 智子 50 大阪市住吉区