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行政長官とワニの涙 藤本欣也

初めて会ったのは区議会選の直前。選挙区で待ち合わせをすると、ジャージー姿で現れた。昼近くなのに、まだ街頭に立っていなかった。「スタッフが寝坊しちゃって…」と頭をかいた。

取材では、「日本の芸能界に興味があるんだ。日本に移住しようかとも考えている」と言い出す始末。そんな彼が民主派旋風に乗り、わずか10票差で激戦を制した。

区議に当選してから再び選挙区で会った。顔つきが変わっていた。取材中、彼の携帯電話が鳴った。近くの住民からだった。

『消防車が何台も来た。私の団地で火災が起きたかもしれない。確かめてほしい-』

●氏は「中座しなければならなくなった」と丁重にわびた。驚いたのは、きびすを返した後の彼の行動である。走ったのだ。しかも、子供が運動会で走るように全速力で。「地位が人をつくるとはこういうことか」と思ったものだ。

その●氏が1月1日の反政府デモで逮捕された。「警察にデモを一方的に打ち切られ、その直後、不法集会に参加した容疑で捕まったのです。不当逮捕です!」と憤っていた。

今月29日からは、新型コロナの感染拡大を防ぐためとして、公共の場で5人以上集まることが禁止された。今後、デモや抗議活動も許可されない可能性がある。

ウイルスに市民たちの耳目が集まる中、9月に予定される立法会選挙を前に、政府の締め付けが強まっているのは確かだ。行政長官がワニの涙を流したかは別にして。(副編集長)

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