朝晴れエッセー

中学生・3月29日

梅が咲く寒い午後、散歩コースの小川に至った。付近に白鷺(しらさぎ)が一羽、頭を上に向け鋭いくちばしの先に小魚が白い腹をのけぞらしていた。川面は小魚たちが右に左に流れに逆らって懸命。

ちょうど、制服の一人の地元中学生が何事かと自転車を止め川面をのぞき込みました。私は久しく若い人と話す縁がなく、良い機会と勇気を出して「以前は何百匹と群れていたが、今は数十匹の群れに減っている。この中で果たして何匹生き残るのかね」と声をかけました。

中学生は「そうですか、生存競争は厳しいですね。僕は生物や環境悪化など難しい問題と教わっています」とハキハキした素直な口調で、親近感を覚えました。次いで「話は少し違いますが、この年齢になると死ぬために生きているようなもので、いかに死すかが私の宿題です」…。

少年とはほんの数分間の語らいで別れの時間となり「愉(たの)しかったよお元気でね、さよなら」。「おじさんもね」と挨拶(あいさつ)を交わし数メートル先のところで突然、自転車上から振り返ることなく大きな声で「おじさーん、もう二度と死を口に出しちゃー駄目だよー」と。

その瞬間いやそんなつもりでは…。と同時に身体の内部(なか)からじわっと温かい何かが湧き上がりました。

私は急いで走り行く後姿に負けじと「ありがとーう」。若者は左手を大きく左右に振って応えてくれました。

澤田斌(たけし)(77) 埼玉県坂戸市