朝晴れエッセー

やらにゃあ・3月27日

数十年前、まだ現役だった頃、会社は今でいうブラック企業だった。

ある年など、1年365日のうち、日曜・祝日を含めて、4日しか休めなかった。もっとも、会社が無理やり働けと言ったわけではなく、忙しいからみんな自主的に仕事をしたのだ。結果としてそれが給料に結びつくからあんまり文句も出ない。

その上、会社はずいぶん家庭的な雰囲気があって、1年に1度は、会社の費用持ちで社員旅行があったし、ときには韓国旅行という桁外れのおまけまであった。年末は必ず餅つき行事があり、お餅の欲しい者なら、女性社員も米さえ持ち込めば、本人に代わって他の社員の誰かが餅つきを手伝ってくれた。

仕事は忙しかったが、社長は社員だけを働かせたわけではなかった。自ら陣頭指揮を執(と)った。仕事に手を抜かない。だから社員も必死についてきた。彼の口ぐせは「やらにゃあ」であった。ひどいワンマン社長だったから、朝令暮改などしょっちゅうだった。

こういう社長のもとでは、社員は強くなる。鍛えられる。叩かれても容易には逃げない、負けない、諦めない。その結果、いつの頃からか「やらにゃあ」が社員全員の合言葉になった。

その彼が、今老人ホームのお世話になっている。脳梗塞で倒れたのだ。歩くことも喋(しゃべ)ることもままならぬ生活を強いられている。

もう一度、彼の元気な「やらにゃあ」の言葉が聞きたい。

坂本 真司 (83) 大阪府高槻市