事情が違っていたら、クレスマンたちはもっと早期にこの脅威を発見し、しずめることができていたかもしれない。バッタの大群がどの方向に進むか、1カ月は早く予測できたかもしれないし、そうすれば、これらの国々はバッタの害に備えられた可能性もある。中央の拠点から殺虫剤を流通させたり、空からの作業のために航空機を用意したり、バッタ退治の専門家を配置したりすることもできたかもしれないのだ。
「バッタの害は山火事のようなものです」と、クレスマンは言う。「まだ小さなキャンプファイヤーであるうちに発見できれば、すぐに消火できます。それで一件落着です」
しかし、初期のうちに察知して消滅させられなければ、バッタの群れはどんどん大きくなる。そして完全に食べるものがなくなるときまで、終わることはないのだ。
菌類による新たな駆除法は実現するか
仮に殺虫剤の散布作戦が始まると、その地域に住んでいる人々は殺虫剤が弱まるまで、24時間は避難していなければならない。それにもし殺虫剤を正確に散布できなければ、その地域のほかの昆虫が巻き添えになる。
だが、新しい生物学的な駆除法に望みがありそうだと、クレスマンは言う。バッタ類を殺す「メタリジウム・アクリドム」と呼ばれる菌類だ。この菌類はバッタやイナゴの仲間だけを退治するので、バッタの害に集中して対処できる。
バッタの脅威は、これからますますひどくなる可能性がある。地球の温暖化はバッタ類にとって好都合だからだ。バッタが大群になるには多くの植物が必要だが、そのためには雨が必要になる。ここ数年はサイクロンが活発だったことは、今後の気候変動を予言しているのかもしれない。
海洋の温度が上がれば、より多くのサイクロンが生まれる。サイクロンが増えたり、サイクロンが繰り返し発生したりして、バッタの大群が移動しながら産卵できる湿った土壌が用意されれば、バッタはどんどん増えてしまう。
温暖化で利益を享受するバッタたち
気候の別の面について考えてみると、バッタは熱や乾燥に対して高度に適応できている。グローバル・ローカスト・イニシアチヴの実験によると、現在のオーストラリアのような干ばつの被害にも、バッタたちは水なしで1カ月は耐えられるという。
つまり、ほかの生物種が地球の急速な温暖化に適応できず苦労している状況において、バッタたちには二重の利点がある。熱に耐えられる生理機能をもっているし、ほかの昆虫が絶滅すれば競争が楽になるからだ。
「多くの地域で予想されているように、地球変動で乾燥が進んで温度が上がれば、バッタのなかには生息範囲を広げるものが出てくるだろうということは、簡単に想像できます」と、グローバル・ローカスト・イニシアチヴのオバースンは言う。「サバクバッタに関していえば、とてつもなく広い地域を監視しなければならなくなるということです」
これが世界の終わりのときだとすれば、地球はわたしたちに生やさしい終わり方を与えてはくれないのだろう。