農作物を食べ尽くすバッタの被害は、温暖化で今後ますます加速する

大雨によりバッタが6カ月で400倍に激増

バッタの生態のもうひとつの重要な要素である水も、現在のアフリカの深刻なバッタの害に関係している。

2018年5月と10月の2度のサイクロン(温帯性低気圧)によって、バッタたちが待ち焦がれていた大雨がもたらされ、アラビア半島南部のほとんど同じ場所で地滑りが起きた。5月の嵐だけでも、砂漠に6カ月も植物が繁茂できるだけの水をもたらしたのだ。6カ月もあれば、バッタは2世代にわたって急速に数を増やすことができる。

「なにしろ1世代ごとに約20倍という飛躍的な増え方をしたのです」と、国連食糧農業機関(FAO)の上級蝗害予測官であるキース・クレスマンは言う。「1世代が3カ月ですから、6カ月後には400倍に増えているんです」。そして10月のサイクロンによって、さらに何カ月もバッタが繁殖した。

このようなバッタの急激な増加は、人の住む地域から遠く離れたオマーンの砂漠地帯で起きた。とはいえ、迫りくる脅威を目の当たりにする人間は、そこにはいなかった。

オマーン南部から北へ、南へと急拡大

クレスマンの働くFAOでは蝗害の予測のために、人間による観察と衛星データを組み合わせた広範なネットワークの形成を支援している。このネットワークは、アフリカ西部からインドに及ぶ最前線の20数カ国の担当者に国による蝗害監視プログラムを提供している。

この担当者たちはトラックで原野をパトロールし、バッタの害の兆候がないかを見張っている。全員が連絡網に参加し、リアルタイムでモニターして、ローマのFAO本部にいるクレスマンと調整しているのだ。

しかし、このネットワークでもバッタの大発生を見つけられない場合もある。「地球上で最も人のいない場所のひとつだったので、何が起きているか誰も気づけなかったのです」と、クレスマンは言う。「そこには何もないんです。道路もインフラも、Facebookも何もです。そこにはただ、摩天楼ほども高い砂丘が続いています」

2018年の終わりになって初めてオマーン南部でバッタの群れが目撃され、クレスマンが警報を発することができた。直後の19年1月、その地方は乾燥し始めた。それから何が起きたか想像がつくだろう。バッタの大群が食べ物を求めて、あちこちを征服しようとする軍隊のように北のイランへ、南のイエメンへと広がっていった。

「このようにして何週間も過ぎ、この地域からバッタの大群がどんどん広まっていきました。そうなって初めて、その地域でそもそもどんな深刻なことが始まっていたのか、やっと理解できるようになったのです」と、クレスマンは言う。

まるで山火事のような存在

戦争で荒廃したイエメンでは、数時間でバッタを殺せる一般的な殺虫剤をまく訓練を受けた人員を派遣する余裕はない(農民や一般市民が殺虫剤をまくのはあまりに危険だ)。その後、イエメンを大雨という悲劇が襲った。侵入してきたバッタたちにとっては、さらなる繁殖のチャンスだ。去年の初夏、バッタの群れは海峡を飛び越えてソマリアに着地し、さらにエチオピアとケニアへと行進を続けた。

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