数が増え始めると、サバクトビバッタは群生相に変化し、食べ物を求めて移動を始める。「そのまま同じ場所にとどまっていたら、個体数が増えすぎて食べ物がなくなってしまうかもしれません」と、シーズは言う。
だからこそ、もっと資源に恵まれた場所を求めて移動する。群れをなして移動することで、1匹でいるより捕食者に食べられてしまう可能性が減る。つまり、数による安全を確保しているのだ。そかし、バッタの移動開始は周辺国の農民たちにとっては、破滅の前兆になる。
体の内側も外側も変化
新しい社会生活に適応するため、バッタの体は内側も外側も変化する。体色は目立たない褐色から、はっきりした黄色と黒に変わる。捕食者に対して、「有毒である」というサインを送るためかもしれない。
バッタは孤独相のときには有毒の植物を食べないが、群生相になると、この地方の植物に含まれる有毒のアルカロイドの一種ヒヨスチアミンのにおいにひきつけられる。この種の植物を食べて毒性を受け継ぎ、体の色を黄色と黒に変えることで、サバクトビバッタはもっと目立つようにしているのだ。
しかし、それも何百万というサバクトビバッタが突進しているときには、たいして意味はない。隠れようとしているものなど1匹もいないからだ。1匹だけでいるときには、特に何もない砂漠で目立つ姿をしているのは賢い戦略ではないだろう。だから目立たない色をしているのだ。
群れが炭水化物を食べ尽くす
食べ物といえば、1日に1匹のバッタは90マイル(約144キロ)以上も移動し、自分の体重と同じ重さの植物を消費する。群生相になったバッタは筋肉の量を増やすのだから、バッタたちは壮大な旅をするためにタンパク質を増やす必要があるだろうと考えるかもしれない。
アリゾナ州立大学グローバル・ローカスト・イニシアチヴの研究コーディネーターであるリック・オバースンは、人間にたとえて次のように説明する。「あなたの友人がビーガンになることにしたと言ったら、心配されるのはタンパク質不足ですよね」
だが、その点でバッタの体は人間とは違うようだ。シーズとオバースンによれば、少なくとも南米のバッタの場合は(彼らはまだアフリカでは現地調査を行っていない)、特に群生相に変身する過程では炭水化物を大量に摂取する。
まさしくこの生理的な奇行によって、バッタの群れは大災害になる。群れをなしたバッタたちは、人間の食物である穀物を食べたがるからだ。
この現象は特に、土壌が劣化した農地をもつ農民たちにとっては恐ろしいことだ。過放牧された土地には炭水化物が豊富な草が生えることが多い。このような草は、疲弊した土壌から窒素が失われるにつれ、タンパク質を吸い取られていく。そうなると確実に、バッタの群れがこのような農地に住み着くことになる。
「聖書やコーランの時代に人間たちは、どこからともなく現れ、空を真っ暗にして飛びまわるバッタの群れに対して、なすすべもない犠牲者でした」と、オバースンは言う。「しかし、栄養と結びつけて考えることによって、新しい事実がわかってきました。わたしたち人間はバッタの害の複雑な力学に対して、もっと積極的にできることがあるかもしれません」