朝晴れエッセー

2月月間賞は「瓶になった干支」

朝晴れエッセーの2月月間賞に、常世(とこよ)ゆかりさん(56)=長野県南牧(みなみまき)村=の「瓶になった干支」が選ばれた。自宅の台所に現れたひめねずみと行方を追う筆者を描いたユーモアあふれる文章と構成が高く評価された。選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、山田智章・産経新聞大阪文化部長。

2020年朝晴れエッセー2月月間賞
2020年朝晴れエッセー2月月間賞

山田 門井先生イチオシの『夫とモデルの私』からいきましょうか。

門井 丁寧なつくりでした。書いたご本人がくも膜下出血ということと、義母と重ねてご主人が写真を撮っているのですが、病名をうまく隠しながら伏線を張った。材料に頼らない文章の丁寧さで推しました。

玉岡 私は逆に病名が最後まで分からなかったので、前半は単に「仲のいい夫婦だな」という感じで読んでいました。なぜご主人が写真を撮り始めたのか、前半でヒントがあればよかったのですが。

山田 私のイチオシは「手紙」です。「震える文字で」という一言で状況がよく分かります。

門井 「ムリシタカナア」というカタカナ表記は、あまりたくさん使ってほしくないんですが、この場合は効いていますね。

玉岡 後ろの「この切手でおてがみください」というおばさんの言葉にやられました。

山田 では3人が評価している「瓶になった干支」に参りましょう。

玉岡 エッセーに必要な軽妙さがある。でも浅すぎない。

門井 自宅でひめねずみが出た、と1行目に書きがちなんですが、それを「近所のログハウス~」ともってくるあたりは余裕ある書きぶりです。導入部として素晴らしい。

山田 読者の方からも、この作品はよかったという声が寄せられていました。

玉岡 スパイス棚の瓶の間にねずみがするっと。ビジュアルが浮かんで、メルヘンというかファンタジーというか。さらり、侵入対策を講じたとだけありますが、どんなでしょうね。

門井 また入ってくるぞ、と思わせる余地がありますね。ねずみとせず、わざわざひめねずみとしたところもいいですね。

玉岡 私、ググりました(インターネットの「グーグル」で検索した)もん。かわいいんです。

山田 優秀作で玉岡先生と門井先生が重なった「高身長ゆえの苦悩」ですが、おもしろいですよね。

玉岡 人の悩みは人それぞれなんですね。ほほえましい。高校生からの寄稿は力んでいることが多いけど、適度に力が抜けていて、読みやすかった。エッセーらしいエッセーです。

山田 神社の手洗い場の屋根で頭をぶつけ「あ、人ってこうやって死んでいくんだなあ」ってところは大げさだけどよかったですね。

門井 ここまでユーモラスに自分のことを書けるのは、文章が未熟なところはあるものの、書いたこの方に興味がわきます。

山田 門井先生と私が優秀作につけた「トラベラーズチェック(T/C)」はどうですか。

門井 説明の手際がうまいです。おそらく現役であろう方からの投稿も含めて貴重と思い、優秀作としました。

山田 初めて海外に行ったときにT/Cを使いました。

玉岡 1000ドル分が使えなかった理由がほしかったです。でも情報で、なるほどと思わせる新聞らしいエッセーでした。

山田 「娘の三回忌を終えて」はいかがですか。

玉岡 つらいことをよく書いてくださった。

門井 三回忌でまだ2年しかたっていないのに、これを書きおおせた。娘さんのことを書くだけでつらいのに、人が読める文章にまで仕上げた点をたたえて次点としました。

玉岡 話題の強さですよね。ママの友達に手紙を書いた娘さんの心がもう…。お母さんがんばってと思った。書かれた勇気とお子さんの手紙の重さです。

玉岡 門井先生と部長が重なる「サザエさんを見ながら」はどうですか。

門井 わずか数行で死と再生を書いている。サザエさんというのがいいですね。日本的日常の象徴みたいなところがあります。

山田 日曜日の家族のだんらんが目に浮かびます。

玉岡 「独りぼっち」と彼女の家での「柔らかい空気」というコントラストがうまいです。

山田 月間賞は、やはり「瓶になった干支」になりますでしょうか。

玉岡 文章も構成もうまかったですね。

門井 見事でした。オノマトペ(擬声語、擬態語)も完璧ですね。

受賞の常世さん「ひめねずみとテリトリー重なった」

月間賞に選んでいただいて、本当にありがとうございました。とにかくうれしいの一言です。

「日常にこそ、物語がある」「日常の何気ない光景を切りとること」という、選考委員の先生方の言葉が勉強になりました。心に残った光景をどんなふうに切りとって描こうかと考え、600字で書くおもしろさにはまりました。

森に住んでいると、小動物とちょくちょく出くわします。彼らにとって私は、自分たちのテリトリーに入り込んできた新参者です。台所で鉢合わせしたのも、ひめねずみと私のテリトリーが重なったことで起きたハプニングなのかもしれません。ねずみ年になるとこの場面を思い出すので、書き留めておこうと思いました。今も何代目かのひめねずみが近所に暮らしていると思います。

会員限定記事会員サービス詳細