新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受けた緊急の先進7カ国(G7)首脳テレビ電話会議後、安倍晋三首相は東京五輪・パラリンピックについて「人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証しとして、完全な形で実施することで一致した」と述べた。
五輪の「完全な形」とは世界中の競技者が一堂に会し、開催都市が万全の態勢で迎える姿を指すのだろう。首相の発言は五輪の中止や無観客を含む縮小の可能性を排し、時期についての明言を避けたことで、日本政府が延期にかじを切り、G7首脳の了承を得たものと解釈する。
もちろん、決定権は開催都市の東京や日本政府にはない。決めるのは国際オリンピック委員会(IOC)である。ただし、大会の成功を約束する開催国の意向は十分に考慮されるべきだ。
現実に欧米で感染拡大が進んでおり、アフリカや南米にも波及している。世界各地でイベントの自粛が相次いでおり、各競技の五輪代表選考も滞っている。感染の収束は見通せず、7月の開会を強行しても「完全な形」の大会を望むことは難しくなる一方だ。
開催時期の正式決定まで、計画通りの大会に向けた準備を怠ることはできないが、同時進行で延期にも備えなくてはならない。
延期と一言でいっても、実際には多大な困難を伴う。会場や人員の確保は一からやり直しである。国際競技大会のカレンダーは数年先まで埋まっており、日本の都合で割り込むことはできない。
例えば1年延長すれば、来年夏には福岡市で水泳世界選手権や、米オレゴン州で陸上世界選手権が予定されている。いずれも国際競技連盟の一大イベントで巨額の放映権料などが絡み、常識では中止や時期の変更はあり得ない。
ただ、世界陸上競技連盟も国際水泳連盟もIOCの主要競技連盟だ。五輪の危機である。G7だけではなく、世界中の国や各競技連盟の協力なしに延期を実現することはできない。
17日に各国際競技連盟などと緊急の電話会議を開くIOCは、強力なリーダーシップを発揮してほしい。東京五輪を「人類が新型感染症に打ち勝つ証し」にすると、開催国が大目標を掲げたのだ。スポーツ界をはじめとする世界中のあらゆる力を結集し、完全な形の開会を実現したい。