朝晴れエッセー

隠れ家・3月18日 

学業も、友達と外で遊ぶことも苦手だった小学生の頃の私にとって、唯一の楽しみは本を読むことだった。

休み時間になると、逃げるように図書室へ向かった。私を守ってくれる隠れ家。図書室という存在に支えられていた。

私が本を好きになったのは、ある学童向けの推理小説シリーズに出会ったことがきっかけだ。それまで大きな活字が並ぶ本しか読んだことのなかった私にとって、「小さな活字がびっしり並ぶ文庫本を読んでいる自分」が、なんだか無性に格好良く思えて、そんな自分の姿に酔いながら、初めて足を踏み入れたミステリーの世界に夢中になっていった。

ある日、図書室へ寄ると、壁に新聞記事の切り抜きが掲示されていた。私にきっかけをもたらした、推理小説シリーズの作者のインタビューと顔写真が掲載された記事だった。作者はこの上なく柔らかな表情で私に微笑みかけている。

衝撃だった。今まで作者の名前しか知らず、年齢も性別も知らなかったので、突然現れた情報量の多さに混乱した。それと同時に、途轍(とてつ)もない安堵(あんど)に包まれた。

それ以来、私は下校前に必ず図書室へ寄り、その記事を眺めるのが日課になった。つらいときも、作者の笑顔を見ると胸があったかくなる。

私を守ってくれる隠れ家には、言葉は交わせないけれど温もりをくれる大切なひとがいた。

小川はる音(25) 東京都調布市