書評

『山の上の物語 庄野潤三の文学』上坪裕介著

 芥川賞受賞作「プールサイド小景」で知られる第三の新人、庄野潤三は平凡な日常生活に内在する危機や不安を巧みに描いた作家としてよく語られる。そんな視点からこぼれ落ちてしまう美質も多いと感じる著者は、家庭や土地といった「場所」をキーワードに庄野文学を改めて読み解く。

 文学の師との出会い、戦時下に送った青春…。伝記的事実や著作から浮かび上がるのは、人生の暗部を凝視する姿ではない。一度しかない人生のいとおしさを感じさせる「場所」の気配をすくい上げようとする強い覚悟だ。作家の平明な文章の奥にある深みが迫る刺激的な論考。(松柏社・3000円+税)

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