正論4月号

習近平が重視する「人民より国家体面」 産経新聞外信部次長 矢板明夫

 閑散とする中国・武漢の海鮮市場周辺=27日(共同)
 閑散とする中国・武漢の海鮮市場周辺=27日(共同)

 ※この記事は、月刊「正論4月号」から転載しました。ご購入はこちらへ。

 今回は中国の新型コロナウイルス対策を検証したいと思います。結論を先に言えば、中国の対応は「でたらめ」かつ後手の連続で、公益に対する正しい理解が確立されないまま、横暴が継続している。そう要約できます。

 具体的に考えるために、時系列に沿って、中国の対応を見ていきましょう。発信源となった湖北省武漢市で初めて感染者が確認されたのは、2019年12月8日でした。その後、市内の病院では、感染者が少しずつ増えていきます。「武漢で原因不明の肺炎患者が確認された」と小さく伝えた中国メディアもありましたが、詳しい報道は全くありませんでした。

 12月下旬あたりになると、市の中心部にある、「華南海鮮市場」周辺で感染者が多くみられたことから、「感染源は海鮮市場ではないのか」といった憶測が、インターネットを通じて広がっていきました。この海鮮市場では、食用ヘビやウサギ、コウモリなどの食用小動物が販売されており、感染症の発信源である可能性が強く疑われました。

 市当局もすでにその頃、感染が拡大していることを把握はしていました。ですが、市当局は、メディアにも医療関係者にも「情報を一切外に漏らしてはならない」と箝口令を敷いてしまったのです。

 実は、武漢市では日本の市議会にあたる人民代表大会が、1月6日から10日まで開催される予定になっていました。そのあと、11日から17日には武漢市が属している、湖北省の人民代表大会が続きます。地元共産党執行部の1年間の活動や執政方針、予算などが審議される場ですが、地方指導者にとって、議会の評価は今後の昇進に影響します。議会開催前に、感染症など大流行されては困るのです。

 日本ではまず考えにくい話ですが、今回、武漢市が肺炎の感染者について発表しなかった最大の理由、それは「指導者の都合」だったと言われています。日本では、こうした場面で隠蔽すれば、激しく指弾され、責めを受けます。ですが、中国当局者は決してそうは考えない。庶民の暮らしを一義的に考えることなど、まずありません。むしろ、自身の保身優先で、庶民を置き去りにすることへの躊躇(ちゅうちょ)や抵抗感などはありません。

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