□『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社・1500円+税)
■昭和30年代の輝きを活写 テレビ・新幹線、記憶頼りに資料調べ
東京の街歩きや、サブカルチャーについて一家言をもつコラムニストは子供のころ、ドラマの一場面になりそうな体験をしていた。
「テレビで東京五輪の開会式を見ていたら、航空自衛隊のブルーインパルスが五輪マークを描いていた。ナマで見えるんじゃないかと外に飛び出すと、上空にあったんです。鮮烈に覚えているなあ」
国立競技場と同じ、新宿区内に自宅があった東京っ子ならではの思い出だ。もっとも当時、小学2年だった著者には、五輪以上に大きな興味を占めるものがいくつもあった。野球や大相撲、芸能界や切手収集に忍者ブーム…。熱中したあれこれを「1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。」でまとめた。
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五輪前年、昭和38年大みそかのNHK紅白歌合戦を、自身がどう視聴していたか-からペンを進めていく。この年の視聴率は81・4%(関東地区)。37年12月にビデオリサーチが調査を始めて以来、東京五輪の女子バレーボール(日本-ソ連66・8%)を大きく上回る全番組で最高だ。四畳半の茶の間に家族が集まっていた記憶をよりどころに、放送ライブラリー(横浜市)へ足を運び、三波春夫、美空ひばりの歌唱シーンを克明にメモ、再現していった。
「だれもがテレビの話題を語ることができた時代だった。それ以前の共通体験となると、戦争になってしまう。1990年代に入ると影響力は薄れてくるから、テレビに一極集中していたのは30年足らずかな」
架空の歌番組の出演者を想定しノートに記すほどテレビ好き、芸能界好きだった著者は、当時の新聞や雑誌にも調査範囲を広げていった。吉永小百合が月刊芸能誌の表紙を2カ月に1度のペースで飾るなど、比類なき人気を誇っていたことを確認する一方、喜劇役者の事故死に衝撃を受けたことを思い返す。