話の肖像画

作家・北方謙三(72)(2)結核で「文学のエリート」

療養しながらの浪人時代が始まりました。肺にできた空洞はなかなか縮まない。でも大学入試を受けるには健康診断書が必要だという。だから自分で入学願書を取り寄せて勝手に健康診断書を書いた。学校の保健室に忍び込んで、内緒で「異常なし」というハンコを押しちゃったんですよ。それを出したら通ったんです、中央大学の法学部に。

いずれにせよ、昔は死んでいたような病気なわけです。「結核文学」という言葉もあるくらい、文学というものは死と隣接した世界で成立している。だったら「自分は文学の世界ならエリートではないか」と思ったりもしました。高校のころから詩を書いていたんだけれど、死について考え、それをノートに日記のような形で書き始めました。初めて小説を書いたのは大学2年生のころかな。肺結核の方は当時の化学療法を3年半くらい続けて一応は治ったんです。だから(文学の)エリートの道からこぼれ落ちてしまったんだけど。(聞き手 海老沢類)

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