全国が新型コロナウイルス禍に揺れるなか、東日本大震災の発生からまる9年を迎えようとしている。吉村作治さん(77)。エジプト考古学者として著名だが、5年前から東日本国際大学(福島県いわき市)の学長を務めていることをご存じだろうか。携わり続ける被災地復興への思い、また見果てぬ「夢と希望」について語ってもらった。(編集委員 関厚夫)
◆いま、なにをすべきか-不安・偏見・風評被害との闘い
「本学では今春の卒業式・入学式とも中止しました。授業もストップしています。もちろん新型コロナウイルス禍への対応であり、政府の方針に準拠した措置でもあります。いまは『手を洗う』『うがいをする』『外出時にはマスクを着用する』『人混みを避ける』『栄養と休息を十分に取る』といったことが非常に重要です。と同時に、個人的には戦争よりもウイルスのほうが人類の命運に大きな影響を与えるだろうと考えていますが、前述の予防措置をしっかり講じたならば、不必要に新型コロナウイルスを恐れるべきではないとも考えています。
人間は情報が過少となったとき、また逆に情報が過多となったときに不安を感じる-あるいは不安をみずからつくってしまうものです。確かに新型コロナウイルスに関しては当初、知るべき情報と知る必要のない情報の線引きが難しく、不安に陥るのも無理がないところがありました。またいまも収束の見込みはたっていませんが、不安を自分自身でつくりあげるような事態を避けることは可能なのではないでしょうか。
ましてや最前線で治療・対応にあたっている医療関係者の方々や感染した人たち、また感染者と接触があった人たちを差別することはあってはならない。この構図は、いまも東日本大震災の風評被害に苦しむ福島の姿と二重写しになります。あえて特定はしませんが、講演などで訪れたさいに『福島から来ました』と自己紹介すると、『どん引き』ではないまでも、目に見えて身構えるのがわかる地域がいまだにあります」
◆9年前の「小さな奇跡」
〈吉村さんは東京生まれの東京育ち。日本とエジプトをまたにかけた多忙さゆえ、みちのくとはあまり縁がなかった。が、東日本大震災が吉村さんの人生を変える〉