話の肖像画

作家・北方謙三(72)(1)人生は「十字路の連続」

あるときね、手相をよく見るという人が僕の手のひらを見てくれた。それでしみじみとこう言ったんです。「いやあよかったですね、作家で。作家になっていなかったらホームレスか刑務所ですよ」と。ホームレスはぴんとこなかった。でも刑務所ってのはリアリティーあったなあ。なんかやらかしているだろうなって。

振り返ると、人生は十字路の連続でしたよ。普段は直線を歩いているつもりでいる。でも何か迷いがあるとき、ふっと目の前に十字路が現れるんです。純文学を続けるか、エンターテインメントを書くべきか-とかね。十字路でどちらかの道を選択して曲がる。そしてまた直線を歩く、という繰り返し。今のところ曲がった先で転んではいない。正しかったかどうか? それは分からないです。死ぬまでね。(聞き手 海老沢類)

【プロフィル】北方謙三(きたかた・けんぞう) 昭和22年、佐賀県唐津市生まれ。中央大法学部卒。56年にハードボイルド小説「弔鐘(ちょうしょう)はるかなり」を刊行し脚光を浴びる。58年に「眠りなき夜」で吉川英治文学新人賞、60年には「渇きの街」で日本推理作家協会賞。その後、歴史小説へと活動の場を広げ、平成3年に「破軍の星」で柴田錬三郎賞。25年に紫綬褒章。28年には全51巻の大作「大水滸伝」シリーズを完結させ、菊池寛賞を受けた。

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