話の肖像画

作家・北方謙三(72)(1)人生は「十字路の連続」

作家の北方謙三さん(松井英幸撮影)
作家の北方謙三さん(松井英幸撮影)

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<筆歴は半世紀。現在も400字詰め原稿用紙で毎月約250枚を書き、文壇の第一線を走る。広大なモンゴル帝国の礎(いしずえ)を築いたチンギス・カンの生涯を描く歴史大河小説「チンギス紀」を小説誌で連載中。単行本の第7巻(集英社)が今月刊行される>

1カ月を自宅、ホテル、海のそばの別荘の3カ所で10日ずつ過ごす。この執筆のリズムは変わらないし、今も万年筆で手書きします。パソコンでブラインドタッチもできるけれど、小説を書こうとしても指がぴくりとも動かない。この手のどこかに小説中枢みたいなのがあって、万年筆を握った瞬間にぴーっと脳までいくんじゃない? そうとしか思えないよ。

そもそもはチンギス・カンという男に関心があったんです。彼はよく言われるような、単なる破壊者だったのだろうか、という思いがあってね。歴史上の人物だから、いろんな見方ができるわけです。残された史料は多くない。ただいろいろ調べていって、行間にあるものを読んでいくと、非常に人間的な英雄の姿も浮かんでくる。強さと弱さがあって、迷いもいっぱいある。それで「自分は何なのか」といつも自問している。いろいろな思いを抱えながら戦に命をかけた男なんだ、と。そういうふうに書いていきたい。小説家にはね、それが本当の像かどうかということとは関わりなく、ある人物を人間的な英雄にできる力があると思うんだよね。

<週刊誌での連載をまとめたエッセー集「生きるための辞書-十字路が見える」(新潮社)を2月に出した。家族、友情、旅…。男気に満ちた言葉が詰まった一冊で、自身が大きな選択を迫られた人生の「十字路」も回想している>