令和2年度から始まる大学入試の新共通テストをめぐり、複数の国語の問題作成委員が辞任していたことが分かった。あろうことか、民間の入試対策本の執筆に携わっていたためである。
立場を忘れ入試の信頼を損ねた責任は重い。
萩生田光一文部科学相は会見で「誤解を招くような仕事に、期間中に携わることは好ましくない」と述べ、大学入試センターにルールの厳格化や倫理観を高めることを求めた。
作問委員がなぜそうした倫理観に欠ける事態を招いたのか、経緯を明確にしてもらいたい。
共通テストは大学入試センター試験に代わり、来年1月に初めて実施される。運営には同センターがあたり、作問のため「国語問題作成分科会」を設置し、大学教授ら専門家が委員を務めている。
このうち複数の委員が、大手教科書会社が昨年8月に出した共通テストの国語記述式対策の例題集の執筆に携わっていた。共通テストの記述式は昨年12月に導入が撤回されたが、当時、入試改革の目玉として注目されていた。
入試問題作成の機密性から、作問委員らの名前は非公表だ。作問に関与した事実は口外しないことなど守秘義務が規則に定められている。例題集の中で守秘義務に触れる規則違反はなかったが、分科会などから、民間で関連本を出すこと自体、利益相反などの「疑念が持たれる」との批判が出て、辞任を申し出たという。
作問委員が例題集を出版することを直接禁じる規定はないが、それをしないのが、共通認識であり、慣例だという。
その常識がなぜ守られなかったのか。大学入試センターは辞任した委員の人数や辞任理由を公表できないとしているが、あいまいにしては不信が増すだけである。
昨年11月に英語の民間試験利用が見送りになり、12月には国語、数学の記述式導入が撤回された。作問委員らが辞任する重大事まで不透明では信頼回復も遠い。
昨年、共通テストの試行調査で記述式問題の採点関連業務を受託した民間業者が、PR資料に受託の事実を記載して営業活動をしていたことが問題となった。
民間の活用や相互の適切な情報交換を否定するつもりはないが、結果的に受験産業に利用されては、教育全体の信頼を損ねることも十分認識してもらいたい。