■『息吹』テッド・チャン著、大森望訳(早川書房、1900円+税)
白バックに、日本語タイトルの「息吹」の変形した漢字と、原題「EXHALATION」のアルファベットを組み合わせた墨文字だけのデザインは、モノクロながら圧倒的な存在感を放つ。装丁を担当したのは、『これからの「正義」の話をしよう-いまを生き延びるための哲学』(マイケル・サンデル著)など活字を大胆に使った本のデザインで知られる装丁家、水戸部功さん。
昨年12月刊行の本書は、現代SF界を代表する中国系米国人作家、テッド・チャン氏の2冊目の著書。2016年に映画化され話題を呼んだ第一作品集『あなたの人生の物語』(映画日本題は「メッセージ」)から17年ぶりとなる。米国での刊行は昨年5月で、オバマ元大統領が自身のフェイスブックで「大きな問いに向き合い考えさせ、そして人間を感じさせる短編集。最高のSF」と絶賛した。日本語版の編集を担当した早川書房ミステリマガジンの清水直樹編集長は「AI(人工知能)やタイムトラベル、家族などバラエティーに富んだテーマからなる9つの短編集。装丁は、一つの作品に限定しないように、無菌や透明感、ヒューマニズムといった感じが伝わるものをお願いした」と話す。
水戸部さんから提案された装丁案には、黒バックで白抜きという色が逆のバージョンもあったが、白バックに墨文字の方が無菌や透明感のイメージに近いということで、こちらを採用した。英語版は、米国版が黒バックに水色の文字、英国版が白バックに墨文字で、やはり文字だけの装丁だが、日本語版に比べるとおとなしめの印象だ。
表題作の「息吹」は、人間が1人も出てこない世界を設定。その世界の秘密を探る科学者を主役に驚きに満ちた物語を描き、SF小説のアカデミー賞といわれる「ヒューゴー賞」などに輝いた。清水編集長は「チャン氏のテーマは非常に多様、斬新で凝縮された作品を書いている。その作家性・作品を1枚のカバーで表現するのはとても難しい作業だが、水戸部さんはこれをクリアし、チャン氏の作家性を見事に表現してくれた。この装丁に何か感じるものがあった方は、ぜひ手に取って読んでほしい」と話している。(平沢裕子)