57キロ級の世界女王はアジア勢の追随を許さなかった。ニューデリーで21日に行われたレスリングのアジア選手権。川井梨は3試合で1点も与えなかった。新型コロナウイルス感染拡大の影響でライバルの中国不在となったが「優勝できてほっとしている」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
2018年アジア大会(ジャカルタ)女子62キロ級準決勝でモンゴル選手に敗れて以降、外国勢に負けていない。それでも「やっぱり緊張した」。初戦は指をつかむ相手の反則を審判が見逃し、右手の黒いサポーターが外れる不測の事態も起きた。「五輪でもああいう場面はいくつも出てくる。経験できたのはよかった」。真骨頂の高速タックルと寝技のローリングを何発も決めつつ、試合勘を吸収できたのも収穫だった。
この日朝、斉藤コーチから幕末の志士、吉田松陰の名言集を手渡され、「母は偉大なり」という言葉が目にとまった。今回の遠征には来ていないが、いつも試合前におにぎりを作ってくれる母・初江さんのありがたみが身に染みたという。
技術的な助言だけでなく、見えない力も与えてくれる指導陣の万全の支援体制を味方に、次に挑むのは約半年後の五輪本番だ。「もっとできることがあった。帰って練習します」。日本女子のエースの力強い言葉が頼もしかった。(岡野祐己)