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政治家は不作為の害を恐れよ 論説副委員長・榊原智

大黒ふ頭に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=横浜市鶴見区(鴨川一也撮影)
大黒ふ頭に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=横浜市鶴見区(鴨川一也撮影)

 なぜ、民主的に選ばれた国会議員しか首相になれず、閣僚の過半も国会議員でなくてはならないのか。

 法律に則(のっと)って行政(政府)が動くべき法治国家であっても、法令は未来の出来事すべてを想定して作っておけないから、が理由の一つだと思う。

 ほとんどの場合、法令に則って行政は営まれるべきだ。それが人権や秩序を最も守りやすい。だが、法令が想定しない出来事で大勢の人が難儀に陥ることはある。行政が手をこまねいていては救える被害者も救えない。

 政府が、既成の法令にないことはしない、想定外の思い切った対応をためらうなら、政治家(国会議員)が政府の要職に就く必要はない。試験に合格した優秀な事務能力を持つ官僚に任せておけばよいということになる。

 非常の事態(緊急事態)では、法令が想定しない臨機応変の措置を直ちにとるべき場合がある。平時なら「人権侵害」「法律違反」と難じられる行動が含まれるかもしれない。

 だから、一身に責任を負う覚悟で必要な行動を行政がとるよう決断し、指示する首相や閣僚らが必要なのだ。

 憲法に緊急事態条項が備わっていれば相当やりやすくなるが、そうでなくても日本は民主主義の国である。国民を救うため、必要な措置はとらねばならない。

 新型肺炎に対して政府は努力をしているが十分ではない。ざるで水をくむような出入国管理を続け、他の水際対策との矛盾を生んだ。武漢からのチャーター機では、法令にないから人権問題になるという理由で、拒む2人に検査を受けさせず、帰してしまった。

 横浜の大型クルーズ船への対応も不合格だ。政府は船外に直ちに適当な宿泊施設を用意せず、感染者数の拡大で船内の「武漢化」が指摘された。米国などがチャーター機で自国民を日本から救い出す動きが進んでいる。

 戦後の政府にもダッカ事件や伊豆大島の全島避難、阪神大震災のがれき処理などで、超法規的措置をとった前例がある。非常時に政治家は法令や平時の手続きに逃げ込まず、「必要性の論理」に基づいて行動しなければならない。不作為の招く害を恐れなくては国民を守れず、法治国家の秩序自体も損ないかねないのである。