人口や産業などの行政データを有効に活用し政策効果を高めるため、長野県が全国の自治体では初めて、政策立案に人工知能(AI)を導入する試みに乗り出している。証拠に基づく政策立案(EBPM)が重視される時代になってきたためだ。ただ、判断を導き出した過程が不透明なAIでは説明責任を果たせず、行政の信頼性を確保できない可能性もある。行政とAIの共生は図れるのか-。
過去を引きずる
県がAIによる政策立案の研究に乗り出したのは、京都大学と日立製作所が開設した「日立未来課題探索共同研究部門」(日立京大ラボ)が平成29年、AIによる政策提言を実施したのに関心を持ち、県側から同ラボに持ち掛けたのがきっかけだ。
阿部守一知事は、政策立案にAIを関与させる意義について「人間の思考はどうしても過去を引きずっている。AIは情緒的ではなく機械的にやる。新しい可能性は、AIと人間が共同作業するところにある」と語る。
シミュレーションでは、令和22年を視野に、持続可能な社会を実現する政策の方向性などをテーマとした。AIが判断材料にするデータは、若手県職員らが、県の総合5カ年計画(平成30~令和4年)から人口や観光客数、県内総生産などのキーワードを抽出し因果関係を付与。そのうえで、原因により結果が発生する可能性の強さなど、すべての因果関係に係数を設け、データとした。