主張

新型肺炎 政府は明確な発信怠るな 「国内流行」への備えを急げ

 新型コロナウイルスによる肺炎をめぐる日本の状況は、新たな厳しい局面に入った。

 各地で国内流行の兆しが表れたからである。政府はこれまでの水際対策に加えて、国内における感染対策にも全力を尽くさなければならない。

 新型コロナウイルスに感染していた神奈川県在住の80歳代の日本人女性が13日、亡くなった。国内で初めての死亡例である。冥福を祈りたい。

 同じ日、東京都のタクシー運転手、千葉県の会社員、和歌山県の医師の感染が確認された。

 これらの人々の中には、中国への最近の渡航歴や滞在歴がないなど感染経路がはっきりしない人がいる。

 ◆重症化から弱者を守れ

 感染経路が追えるうちは拡大は限定的といえる。国内の発症例はこれまで、中国からの観光客との接点があるなど感染源をたどることができた。経路が分からない例が相次いで登場した以上、ウイルスが市中へ広がっている可能性がある。

 これから経路不明の感染例が国内で増していくことを念頭に、万全の備えをとるべきだ。

 それにはまず、政府が国民に対して、新型肺炎をめぐる現状をきちんと説明することが求められる。対策の司令塔であるべき加藤勝信厚生労働相や菅義偉官房長官らの説明が不十分だからだ。

 加藤氏は13日夜の記者会見で、死亡女性と、タクシー運転手が親族関係にあると公表しなかった。加藤、菅両氏はそれぞれ会見で、「現時点で、国内で流行していると判断するに足る疫学的情報が集まっているわけではない」と繰り返した。

 国民が知りたいのは真実と、これからどうなりそうか、どのように行動すべきか、という点だ。

 加藤氏は記者団の重ねての質問に「拡大することは可能性としては否定できない」とようやく語ったが、極めて分かりにくい。日本感染症学会は「すでに国内にウイルスが入り込み、街の中で散発的な流行が起きていてもおかしくない」との見解をまとめている。

 国内流行の兆しが出たのでさまざまな対策をとる-と正直に伝えることをなぜためらうのか。現実的な見通しに基づく具体的な行動を国民に分かりやすく説かねばならない。それは無用な不安をあおることとは違う。

 的確な発信がなければ人々は政府を疑い、不安や混乱が広がるリスクがある。新型コロナウイルスは無症状の感染者からも広がる厄介な存在だ。入念な手洗いやマスク着用の励行につなげるためにも一定の危機感は伝えるべきだ。

 政府は13日、第一弾の緊急対策をまとめた。検査体制の強化や簡易検査キット、ワクチンの開発促進、品薄のマスクの増産支援、観光業、製造業など企業の資金繰り支援などを盛り込んだ。

 ◆後手の対応を猛省せよ

 感染者や疑いのある人を強制入院させる「隔離」や、宿泊施設や船内に足留めする「停留」を可能にする政令改正も行った。

 これらの対応を急ぐべきだが、国内流行の兆しが表れる以前のもののようにもみえる。

 市中での感染拡大を少しでも減らしたい。とりわけ、高齢や持病により重症化しやすい弱者を守ることが重要だ。まだ限られた検査能力を、どの人に用いるか。厚労省は検査の優先順位をつける指針を急ぎまとめてもらいたい。

 平成21年の新型インフルエンザの際は専門外来がある病院に大勢の人が詰めかけ、本当に必要な人の治療に支障が出た。その教訓から今回、専門の外来(帰国者・接触者外来)の場所は公表していない。地域の「帰国者・接触者相談センター」に連絡してつないでもらう仕組みだ。政府や都道府県は相談窓口を充実させてほしい。

 安倍晋三首相や菅氏は新型肺炎に対して「先手先手で取り組んでいる」と語っているが、果たしてそうだろうか。

 日本は米英などと異なり、中国からの旅行者の入国を認めるなどざるで水をくむような出入国管理をいまだに続けている。横浜の大型クルーズ船への対応は内外で「感染を広げた」とみなされ、日本の印象を損なっている。

 水際対策で政府は後手に回ってきた点を猛省し、国民の生命と健康、社会を守るため、今後は迅速な決断、対応に努めるべきだ。

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