トランプ氏には、司令官の攻撃計画がより大がかりなものだったと主張することで、殺害作戦を正当化する狙いがあったとみられる。だが、閣僚らの発言は、殺害作戦にしっかりした根拠があったのか、さらには自衛措置だったとする政権の主張が正当だったのか、逆に大きな疑念を生じさせることになっている。
過去の政権では重要な軍事行動の際には、野党にも事前に通知して超党派の理解を得ることが多かった。民主党のペロシ下院議長らは、今回の司令官殺害では議会への正式通知が事後だったことを問題視し、殺害は「イランとの緊張を高め、米兵や外交官らを危険にさらした」と非難している。
トランプ政権は非公開で議会上下院に殺害作戦について説明したが、具体的な証拠は示さなかったもようで、「まったく差し迫ったものはなかった」(ファッジ下院議員)などと、民主党議員の多くが否定的な見方を強めた。批判は与党・共和党からも出ており、同党のリー上院議員は「私が軍事関連で受けた説明で最悪のもの」とこきおろしている。
トランプ氏はこうした懸念を一蹴する。ツイッターで「攻撃が差し迫っていたのか」「私のチームが(見解で)一致していたのか」について議論があるとしたうえで、「答えはどちらもイエスだが、彼(ソレイマニ司令官)のひどい過去を考えればそんなことはまったく問題ではない」と強弁した。
■イラクで高まる対米批判
米国は2003年のイラク戦争以後、同国に米兵を駐留させてきた。現在は、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討などを目的に約5000人規模が駐留している。ソレイマニ司令官の「コッズ部隊」を通じてイランへの浸透を図ってきたイランにとり、駐留米軍は目の上のタンコブだ。
司令官殺害後、イラク国会では、シーア派の親イラン勢力が主体となり、米軍の撤収を要求する決議がなされた。親イラン勢力がこの機に、イラクでの米国の影響力を削ごうとしているのは明白だ。
そんな中で司令官殺害をめぐる米国の根拠説明が揺らげば、イラン側にいっそう対米批判の材料を与えることにもなりかねない。(ワシントン 住井亨介)